急性毒性
経口
【分類根拠】 (1)~(7) より、該当する件数の多い区分4とした。
【根拠データ】 (1) ラットのLD50:1,200 mg/kg (JECFA FAS48 (2001)) (2) ラットのLD50:1,230 mg/kg (SIDS (2004)、環境省リスク評価第11巻 (2013)、PATTY (6th, 2012)) (3) ラットのLD50:1,600 mg/kg (JECFA FAS48 (2001)) (4) ラットのLD50:1,610 mg/kg (SIDS (2004)、PATTY (6th, 2012)) (5) ラットのLD50:1,660 mg/kg (環境省リスク評価第11巻 (2013)) (6) ラットのLD50:2,080~2,100 mg/kg (SIDS (2004)、PATTY (6th, 2012)、JECFA FAS48 (2001)) (7) ラットのLD50:3,100 mg/kg (JECFA FS48 (2001)、PATTY (6th, 2012))
経皮
【分類根拠】 (1) より、区分4とした。
【根拠データ】 (1) ウサギのLD50: 2,000 mg/kg (SIDS (2004)、環境省リスク評価第11巻 (2013))
吸入: ガス
【分類根拠】 GHSの定義における液体であり、ガイダンスにおける分類対象外に相当し、区分に該当しない。
吸入: 蒸気
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。なお、旧分類で採用したデータはエアロゾルによる試験との記載があることから、ミストの基準値を適用し、旧分類を変更した。
吸入: 粉じん及びミスト
【分類根拠】 (1) のGLP準拠データは、4.178 mg/Lで死亡例がないことから、区分に該当しないとした。(1) のデータはエアロゾルによる試験との記載があることから、ミストの基準値を適用し、旧分類を変更した。
【根拠データ】 (1) ラットのLC50 (4時間):> 4.178 mg/L (SIDS (2004))、 (OECD TG 403、GLP準拠)
【参考データ等】 (2) ラットのLC50 (8時間):> 1,000 ppm (4時間換算値: 8.1 mg/L) (PATTY (6th, 2012)) (3) ラットのLC50 (4時間):8.9 mg/L (SIDS(2004))
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) OECD TG 404に準拠したウサギを用いた皮膚刺激性試験で非刺激性 (not irritating) と報告されている (SIDS (2004))。 (2) ウサギの皮膚刺激性試験の2報告で、皮膚一次刺激性インデックス (PII値) は、それぞれ、1.56、1.83と報告されている (ECETOC TR66 (1995))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】 (1) より、区分2とした。
【根拠データ】 (1) OECD TG 405に準拠したウサギを用いた眼刺激性試験で、中等度の刺激性 (moderately irritating) と報告されている (SIDS (2004))。
呼吸器感作性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
【分類根拠】 (1)~(6)より、区分1Aとした。なお、新たな知見に基づき、分類結果を変更した。産衛学会 (2019)にて感作性知見が公表されたため、旧分類から皮膚感作性項目のみ見直した(2021年)。
【根拠データ】 (1)日本産業衛生学会では感作性物質皮膚第2群に分類している(産衛学会感作性物質の提案理由書 (2019))。 (2)接触性皮膚炎が疑われた患者5,202名に対するパッチテストでは、全患者のうち48名(0.9%)が、また、化粧品へのアレルギー反応のみを示した156名のうち2名(1.3%)が、本物質に感作されていた。(産衛学会感作性物質の提案理由書 (2019))。 (3)健常ボランティア19名、皮膚炎患者31名に対するオープンテストにおいて、健常者15名、患者17名に即時型反応として皮膚蕁麻疹が生じた。また、パッチテストでは、本物質による遅延型アレルギーとしてのアレルギー性接触性皮膚炎は健常者、患者ともに全員陰性であった(産衛学会感作性物質の提案理由書 (2019))。 (4)香粧品香料原料安全性研究所(RIFM)はヒトボランティアを対象にマキシマイゼーションテストを行った結果、全員陰性であり、ワセリン中10%の本物質によるによる刺激性や感作性の根拠はないとした。ヒトボランティアを対象とした皮膚繰り返し感作誘導試験では、本物質の20%溶液では56名中5名、15%溶液では46名中5名、7.5%溶液では10名中3名、5%溶液では101名中2名に感作がみられ、3%溶液では107名全員に感作はみられなかった(産衛学会感作性物質の提案理由書 (2019))。 (5)感作及び誘発濃度3~20%(3,543 µg/cm2~23,622 µg/cm2)の用量を用いたヒト反復侵襲パッチテスト(HRIPT)の結果から、本物質の弱~中程度の皮膚感作性の傾向が示唆される。本物質の8,858 µg/cm2 (7.5%) から23,622 µg/cm2 (20%)の高用量では、感作された被験者数の増加がみられたとの報告がある(EU REACH CoRAP Substance Evaluation Conclusion (2020))。 (6)本物質に対して様々な程度の陽性反応が示されたとの多数の症例報告がある(EU REACH CoRAP Substance Evaluation Conclusion (2020))。
【参考データ等】 (7)マウス(n = 4)を用いた局所リンパ節試験(LLNA)(OECD TG 429、GLP)において、刺激指数(SI値)は1(2.5%)、0.9(5%)、0.5(10%)、0.6(25%)、1.2(50%)であったとの報告がある(CLH Report (2020)、EU REACH CoRAP (2020)、REACH登録情報 (Accessed Oct. 2021))。
生殖細胞変異原性
【分類根拠】 (1)、(2) より、専門家判断に従い、ガイダンスにおける分類できないに相当し、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) In vivoでは腹腔内投与によるマウス骨髄細胞の小核試験で陰性である (環境省リスク評価第11巻 (2013)、SIDS (2004))。 (2) In vitroでは細菌の復帰突然変異試験で陰性である。また、マウスリンフォーマ試験及び染色体異常試験では代謝活性化系存在下で陽性だが、極めて高濃度かつ細胞毒性濃度での反応であり、in vitro小核試験では陰性であった (NTP TR343 (1989)、NTP DB (Access on May 2019)、環境省リスク評価第11巻 (2013)、PATTY (6th, 2012)、SIDS (2004)、JECFA FAS48 (2001)、DFGOT vol.3 (2018))。
【参考データ等】 (3) DFGOT vol.3 (2018) 及びSIDS (2004) では、染色体異常試験陽性の結果は極めて高濃度や細胞毒性を示す濃度で得られたものであり、本物質の遺伝毒性の懸念はないと結論している (DFGOT vol.3 (2018) 、SIDS (2004))。
発がん性
【分類根拠】 国内外の分類機関による分類結果はない。利用可能なヒトを対象とした報告はない。(1) よりガイダンスの分類できないに相当し、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) ラットおよびマウスに2年間強制経口投与した発がん性試験で、両種の雌雄ともに発がん性の証拠なし (no evidence) と結論された (NTP TR343 (1989))。
生殖毒性
【分類根拠】 (1)、(2) より、発生毒性は母動物毒性発現用量で軽微な影響がみられたのみで区分に該当しないが、性機能及び生殖能に関する情報がなく、データ不足のため分類できない。
【根拠データ】 (1) 雌マウスの妊娠6~15日に強制経口投与した発生毒性試験において、母動物毒性(1/50例の死亡)がみられたが発生影響はみられていない (SIDS (2004)、PATTY (6th, 2012) 、環境省リスク評価第11巻 (2013))。 (2) 雌マウスの妊娠7~14日に強制経口投与した発生毒性試験において、母動物毒性(19/50例の死亡、チアノーゼ、振戦、衰弱、運動失調等)がみられ、児の出生時体重の減少、その後の体重増加抑制がみられた (SIDS (2004)、PATTY (6th, 2012) 、環境省リスク評価第11巻 (2013))。
【参考データ等】 (3) 旧分類で引用された「ラットの4世代経口投与試験」は本物質ではなく安息香酸 (benzoic acid) のデータである。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
【分類根拠】 (1)~(3) より、区分1 (中枢神経系、腎臓)、区分3 (麻酔作用) とした。新たな情報源の使用により、旧分類から分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1) 本物質を34.8%含有する塗膜剥離剤を吸入した45歳男性が、意識障害を来して昏睡状態で緊急搬送され、血圧低下、進行性の代謝性アシドーシスと尿細管障害による多尿を示し、急性ベンジルアルコール中毒と診断された (伊藤ら、日救急医会誌. vol. 29, p.254 (2018))。事故原因となった剥離剤の他の成分 (及び含有量) は、製品のSDSには水 (50%以上)、リン酸 (1~5%)、ナフタリン及び過酸化水素 (いずれも1%未満) と記載されており、上記の影響は本物質によると考えられる。 (2) 本物質は、皮膚に塗布、又は1%溶液の皮下注射により局所麻酔に使用された経緯がある (環境省リスク評価第11巻 (2013))。 (3) ラットの単回経口投与試験において、抑うつ状態、興奮、昏睡がみられた。影響がみられた用量の記載はないが、LD50値である1,230 mg/kg付近でみられたとすると、区分2に相当する (SIDS (2004))。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
【分類根拠】 (1)、(2) より、ヒト小児への静脈内投与により中枢神経系への影響がみられていることから、区分1 (中枢神経系) とした。
【根拠データ】 (1) 本物質は、血管内カテーテル洗浄液の保存剤として使用され、低体重児に神経系の阻害及び致死を引き起こした (PATTY (6th, 2012))。 (2) 本物質0.9%を含有する液体の静脈内投与により、低出生体重児に中毒症状 (あえぎ呼吸、アシドーシス、神経機能低下等) が発現した (PATTY (6th, 2012))。
【参考データ等】 (3) ラットあるいはマウスに50~800 mg/kg/dayを13週間経口投与した結果、800 mg/kg/day (区分2超) で神経毒性の兆候 (よろめき歩行、努力性呼吸、嗜眠) がみられ、さらにラットでは、脳、胸腺、骨格筋、腎臓の病変等がみられた (NTP TR343 (1989)、SIDS (2004)、PATTY (6th, 2012)、環境省リスク評価第11巻 (2013))。 (4) ラットに200、400 mg/kg/day、マウスに100、200 mg/kg/dayを2年間経口投与した結果、投与による非腫瘍性病変の発生はみられなかった (NTP TR343 (1989))。
誤えん有害性*
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。