急性毒性
経口
GHS分類: 区分外 ラットのLD50値として、500 mg/kg (環境省リスク評価書第1巻 (2002))、500~1,000 mg/kg (DFGOT vol. 4 (1992)、IARC 29 (1982))、> 2,000 mg/kg (EU-RAR (2004)、DFGOT vol. 4 (1992))、2,515 mg/kg (DFGOT vol. 4 (1992))、2,515 mg/kg (NICNAS (2000))、3,863 mg/kg (雄)、3,790 mg/kg (雌) (EPA Pesticide (2008)、ATSDR (2006)、NICNAS (2000)、DFGOT vol. 4 (1992))、4,000 mg/kg >、> 1,000 mg/kg (NTP TR 319 (1987))、1,625~3,863 mg/kg (ACGIH (7th, 2001))、2,515~3,863 mg/kg (NITE初期リスク評価書 (2005)) との10件の報告がある。2件が区分4に、5件が区分外 (うち4件が国連分類基準の区分5に該当する。) に、1件が分類できないに該当するために、最も多くのデータが該当する区分外 (国連分類基準の区分5) とした。なお、2件は複数のデータを取りまとめた値であったために、分類には採用しなかった。
経皮
GHS分類: 区分外 ラットのLD50値として、> 2,000 mg/kg (EU-RAR (2004)、DFGOT vol. 4 (1992))、> 6,000 mg/kg (EPA Pesticide (2008)、ATSDR (2006)、NITE初期リスク評価書 (2005)、ACGIH (7th, 2001)、NICNAS (2000)、DFGOT vol. 4 (1992))、及びウサギのLD50値として、> 5,010 mg/kg (ACGIH (7th, 2001)) との報告に基づき、区分外とした。
吸入:ガス
GHS分類: 分類対象外 GHSの定義における固体である。
吸入:蒸気
GHS分類: 分類対象外 GHSの定義における固体である。
吸入:粉じん及びミスト
GHS分類: 区分外 ラットのLC50値 (4時間) として、> 5.07 mg/L (NITE初期リスク評価書 (2005)、EU-RAR (2004)、NICNAS (2000)、DFGOT vol. 4 (1992)) 及び> 6.00 mg/L (EPA Pesticide (2008)) との報告に基づき、区分外とした。なお、被験物質が固体であるため、粉じんの基準値を適用した。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
GHS分類: 区分外 ウサギを用いた皮膚刺激性試験 (OECD TG 404) において、本物質500 mgを4時間適用した結果、軽度の紅斑がみられたが7日後に回復したとの記載がある (EU-RAR (2004)、NITE初期リスク評価書 (2005))。また、ウサギを用いた別の皮膚刺激性試験において、中等度から重度の紅斑がみられたが72時間後に回復し、皮膚一次刺激指数 (PⅡ) は2.9であったとの報告がある (EPA Pesticide (2008))。その他に本物質は皮膚に対して刺激性を有するとの記載がある (環境省リスク評価書第1巻 (2002))。以上、OECDテストガイドラインに従った試験の結果から区分外 (国連分類基準の区分3) とした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
GHS分類: 区分2 ウサギを用いた眼刺激性試験 (OECD TG 405) において、本物質500 mgを24時間適用した結果、結膜の発赤及び浮腫がみられたが72時間後には回復し、軽度の眼刺激性ありと報告されている (EU-RAR (2004)、NITE初期リスク評価書 (2005))。また、ウサギを用いた別の眼刺激性試験において、結膜炎、虹彩炎、角膜混濁、角膜血管新生がみられたが適用後13日の間に回復し、刺激性スコアが20 (最大値47) であったことから、中等度の刺激性と報告されている (EPA Pesticide (2008))。その他、ヒトの職業ばく露において重度の眼刺激性の報告 (NICNAS (2000)、ACGIH (7th, 2001)) や、眼に対して刺激性を有し眼球水晶体の混濁を著明に起こすとの記載がある (環境省リスク評価書第1巻 (2002))。以上、OECDテストガイドラインに従った試験の結果から区分2とした。なお、本物質はEU CLP分類において「Eye. Irrit. 2 H319」に分類されている (ECHA CL Inventory (Access on September 2015))。
呼吸器感作性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
GHS分類: 区分1 モルモットを用いたマキシマイゼーション試験の結果、24匹中14匹に感作性がみられ (評点1;9/24匹、評点2;4/24匹、評点3;1/24匹)、感作性ありと報告されている (EU-RAR (2004)、NITE初期リスク評価書 (2005))。また、ヒトでは、69歳の男性が本物質で処理した肘掛け椅子に皮膚接触し、アレルギー性紫斑病を発症した例が報告されている(NICNAS(2000))。以上より、区分1とした。
生殖細胞変異原性
GHS分類: 分類できない In vivoでは、マウスの優性致死試験で陰性、ラットの腎臓細胞を用いた小核試験、マウスの骨髄細胞を用いた小核試験で陽性/陰性の結果、マウスの末梢血赤血球を用いた小核試験で陰性、ラットの骨髄細胞を用いた染色体異常試験で陰性、ラットの腎臓、マウスの肝臓、肺、脾臓、腎臓、骨髄を用いたコメットアッセイで陽性、ラット及びマウスの肺、胃 を用いたDNA付加体形成試験で陽性、ラットの肝臓、腎臓を用いたDNA付加体形成試験で陽性/陰性の結果、ラットの腎臓、マウスの肝臓を用いた不定期DNA合成試験、ラットの肝臓及び腎臓、マウスの肝臓を用いた複製DNA合成試験で陽性である(NITE初期リスク評価書 (2005)、IARC 73 (1999)、ACGIH (7th, 2001)、ATSDR (2006)、EU-RAR (2004)、NICNAS (2000)、NTP TR 319 (1987))。In vitroでは、細菌の復帰突然変異試験、哺乳類培養細胞の遺伝子突然変異試験、マウスリンフォーマ試験、小核試験、姉妹染色分体交換試験では陰性結果が多いが陽性結果も存在し、哺乳類培養細胞の染色体異常試験では陰性、DNA損傷試験では陽性である (NITE初期リスク評価書 (2005)、IARC 73 (1999)、NTP TR 319 (1987)、ACGIH (7th, 2001)、ATSDR (2006)、EU-RAR (2004)、NICNAS (2000))。以上より、小核試験における陽性知見は再現性が認められず、あるいは標準的試験ではないことから、WOEに基づき問題となる遺伝毒性はないと判断されており (EU-RAR (2004))、ガイダンスにしたがい分類できないとした。
発がん性
GHS分類: 区分2 ヒトでは白血病5症例の報告が1件あるが、本物質への特異的なばく露と発がん性との関連性を評価可能な疫学研究は不十分とされている (NTP RoC (13th, 2014)、IARC 73 (1999))。実験動物では、ラット及びマウスを用いた強制経口投与による2年間発がん性試験において、ラットでは尿細管上皮細胞がんの頻度増加が雄に、マウスでは肝細胞腺腫、肝細胞がんの頻度増加が雌雄にそれぞれ認められた (IARC 73 (1999)、ACGIH (7th, 2001))。吸入経路では本物質の蒸気をラットに76週間、又はマウスに56週間吸入ばく露した試験では、いずれも腫瘍発生頻度の増加がみられなかった (IARC 73 (1999)、ACGIH (7th, 2001)) が、IARCは投与期間が短い点を指摘している (IARC 73 (1999))。しかし、ラット、又はマウスに本物質蒸気を2年間吸入ばく露した試験では、マウスの試験で肝細胞がん、組織球性肉腫の頻度増加が雄に、肝細胞がん、肝細胞腺腫、及び肺の細気管支/肺胞上皮がんの頻度増加が雌にみられたことが報告されている (厚労省委託がん原性試験結果 (Access on August 2015))。既存分類結果としては、IARCがグループ2Bに (IARC 73 (1999))、ACGIHがA3に (ACGIH (7th, 2001))、日本産業衛生学会が第2群Bに (産衛学会許容濃度の勧告 (2015))、NTPがRに (NTP RoC (13th, 2014))、EUが Carc. 2 に (EU-RAR (2004))、それぞれ分類している。以上より、本項は区分2に分類した。
生殖毒性
GHS分類: 区分2 ヒトでの生殖影響に関する情報はない。実験動物では、ラットを用いた吸入経路、又は経口 (強制経口) 経路における2世代生殖毒性試験において、いずれの経路でも親動物に一般毒性影響 (体重増加抑制、肝臓影響 (重量増加、肝細胞肥大)、腎臓影響 (重量増加、腎症) など (F0、F1の雌雄 (吸入)、F0、F1の雄 (経口)) が生じた用量で、F1、F2児動物に出生前後の死亡率増加、同腹児数の減少、体重低値、又は離乳時までの体重増加抑制、発達指標の遅延などがみられたが、いずれの世代の親動物にも生殖毒性影響は示されなかった (EU-RAR (2004)、NITE初期リスク評価書 (2005)、ATSDR (2006))。 発生毒性に関しては、妊娠ラット、又は妊娠ウサギの器官形成期に本物質の蒸気を吸入ばく露した試験において、最高用量 (508 ppm (ラット)、800 ppm (ウサギ)) まで親動物、胎児ともに異常は観察されなかった (EU-RAR (2004)、ACGIH (7th, 2001)、NITE初期リスク評価書 (2005)、ATSDR (2006))。また、妊娠ラットの器官形成期に強制経口投与した試験では、500 mg/kg/day以上で母動物に体重増加抑制がみられ、胎児には500 mg/kg/dayで骨格変異 (過剰肋骨) 頻度増加、1,000 mg/kg/dayで胎児重量減少がみられたのみであった (EU-RAR (2004)、ACGIH (7th, 2001)、NITE初期リスク評価書 (2005)、ATSDR (2006))。以上の実験動物による生殖発生毒性影響に関する知見に基づき、日本産業衛生学会は本物質を「生殖毒性物質第3群」に分類した (許容濃度の暫定値 (2014) の提案理由 (産衛誌 56 (2014)、許容濃度の勧告 (2015))。
以上、ラットを用いた吸入、及び経口経路での2世代生殖毒性試験結果からは、親動物の生殖能への有害影響はないが、親動物に一般毒性影響が発現した用量で児動物の出生時の生存児数、体重の低値、離乳までの成長遅延など生時及び生後に発生・発達への有害影響がみられたこと、並びに産衛学会による分類結果も区分2に該当することから、本項は「区分2」とした。 なお、旧分類 (平成21年度) ではラット経口投与2世代生殖毒性試験で、F1親動物に毒性が発現しない用量 (90 mg/kg/day) で児動物への有害影響がみられたとして、「区分1B」に分類されたが、F1親動物の 90 mg/kg/day 群においても雄に肝臓影響 (肝臓相対重量の増加) の記述があり (EU-RAR (2004))、今回の評価に際しては中用量から親動物に一般毒性影響の徴候が肝臓に発現しているものと考え、分類ガイダンスに従い分類した結果、分類区分を区分2に変更した。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
実験動物では、ラット経口投与 (区分2相当) で異常歩行、円背位、腎皮質の硝子滴増加 (雄ラット)、肝細胞空胞変性、肝ポルフィリン症 (雌ラット)、ラットの吸入ばく露 (区分1相当) で振戦、反射低下、自発運動亢進、立毛、振戦、反射消失、小葉中心性肝細胞肥大、肝細胞空胞化及び軽度壊死、雄では、腎臓皮質の硝子滴増加の報告がある (NITE初期リスク評価書 (2005)、環境省リスク評価書第1巻 (2002)、産衛学会許容濃度の提案理由書 (1998)、ACGIH (7th, 2001)、EU-RAR (2004)、NICNAS (2000))。 ヒトの経皮ばく露例での腎臓傷害は1例のみであり、経口や吸入により腎臓所見が見られないこと、実験動物の腎皮質の硝子滴増加は雄ラットのため、本物質の腎臓への影響は採用しなかった。 以上より、本物質の影響は、気道刺激性、中枢神経系、血液系、肝臓であり、区分1 (中枢神経系、血液系、肝臓)、区分3 (気道刺激性) とした。
GHS分類: 区分1 (中枢神経系、血液系、肝臓)、区分3 (気道刺激性) 本物質は気道刺激性がある (NITE初期リスク評価書 (2005)、環境省リスク評価書第1巻 (2002)、産衛学会許容濃度の提案理由書 (1998)、ACGIH (7th, 2001)、EU-RAR (2004)、NICNAS (2000)、DFGOT vol. 20 (2003))。ヒトの事例では、防虫剤結晶を経口摂取した 3 歳の男児の事故例で、咳き、黄疸、急性溶血性貧血、メトヘモグロビン尿、男性の密閉された部屋での吸入ばく露例で、眩暈、貧血、男性の経皮ばく露例で、腎臓傷害が報告されている (NITE初期リスク評価書 (2005)、環境省リスク評価書第1巻 (2002)、産衛学会許容濃度の提案理由書 (1998)、ACGIH (7th, 2001)、EU-RAR (2004)、NICNAS (2000)、IARC 73 (1999)、ATSDR (2006))。その他、本物質の急性症状は、肝臓への影響、頭痛、悪心、嘔吐、眩暈、中枢神経抑制、痙攣発作、興奮、衰弱、メトヘモグロビン血症、急性溶血性貧血との記載がある (ACGIH (7th, 2001)、IARC 73 (1999)、ATSDR (2006))。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
GHS分類: 区分1 (神経系、肝臓、血液系)、区分2 (呼吸器、腎臓) ヒトでは、蒸気ばく露により全身の点状出血、貧血、黄疸、肝臓の黄色萎縮、不安定歩行、知覚異常、言語障害 (EU-RAR (2004)、NITE初期リスク評価書 (2005)) がみられ、経口摂取において貧血 (血色素減少症、小球性貧血、ハインツ小体) (NITE初期リスク評価書 (2005))、不安定歩行、手の振るえ、精神的な活動の低下 (ACGIH (7th, 2001)) がみられている。 実験動物では、ラット、モルモットを用いた5~7ヶ月間吸入毒性試験において、158 ppm (0.965 mg/L) で肝臓、腎臓の重量増加、 肝細胞の変性及び水腫がみられ (EU-RAR (2004)、NITE初期リスク評価書 (2005)、ATSDR (2006))、ラット、モルモットを用いた16日間吸入毒性試験において、173 ppm (ガイダンス値換算:0.22 mg/L) で肺の間質の水腫、うっ血、肺胞の出血がみられている (ATSDR (2006))。ラットを用いた4週間強制経口投与毒性試験において、150 mg/kg/day (90日間換算値:46.7 mg/kg/day) で尿細管の拡張及び壊死を伴う尿細管腎症、300 mg/kg/day (90日間換算値:93.3 mg/kg/day) で肝臓の重量増加、腎臓の重量増加、小葉中心性肝細胞肥大がみられている(EU-RAR (2004)、NITE初期リスク評価書 (2005))。イヌを用いた1年間強制経口投与毒性試験において、50 mg/kg/dayでALT、AST、γ-GTP 活性の上昇、肝臓、腎臓の重量増加、肝細胞の肥大及び色素沈着、胆管の過形成及び肝臓の門脈性炎症、腎臓の褪色及び集合管上皮の空胞化がみられている (EU-RAR (2004)、NITE初期リスク評価書 (2005))。
以上のようにヒトにおいて、貧血、中枢神経系、肝臓に影響がみられ、実験動物では肺、肝臓、腎臓に影響がみられいずれも区分2の範囲であった。 したがって、区分1 (神経系、肝臓、血液系)、区分2 (呼吸器、腎臓) とした。
吸引性呼吸器有害性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。