急性毒性
経口
【分類根拠】 (1)より、区分に該当しない(国連分類基準の区分5)。
【根拠データ】 (1)ラットのLD50:2,714 mg/kg(雄:2,868 mg/kg、雌:2,566 mg/kg)(OECD TG 401、GLP)(CLH Report (2019)、REACH登録情報 (Accessed Jan. 2023))
経皮
【分類根拠】 (1)より、区分に該当しない。
【根拠データ】 (1)ラットのLD50:> 2,000 mg/kg(OECD TG 402、GLP)(CLH Report (2019)、REACH登録情報 (Accessed Jan. 2023))
吸入: ガス
【分類根拠】 GHSの定義における固体であり、区分に該当しない。
吸入: 蒸気
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
吸入: 粉じん及びミスト
【分類根拠】 (1)より、区分を特定できず、分類できない。
【参考データ等】 (1)ラットのLC50(4時間):> 0.1 mg/L(OECD TG 403、GLP)(CLH Report (2019)、REACH登録情報 (Accessed Jan. 2023))
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
【分類根拠】 (1)より、区分に該当しない。
【根拠データ】 (1)ウサギ(n=6)を用いた皮膚刺激性試験(OECD TG 404、GLP、半閉塞、4時間適用、3日観察)において、皮膚刺激性反応はみられなかったとの報告がある(ECHA RAC Opinion (2020)、CLH Reporrt (2019))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】 (1)より、区分2Bとした。
【根拠データ】 (1)ウサギ(n=6)を用いた眼刺激性試験(OECD TG 405相当、GLP、8日観察)において、みられた影響はすべて8日以内に完全に回復した(角膜混濁スコア:0/0/0/0/0/0、虹彩炎スコア:0/0/0.3/0.3/0/0.3、結膜発赤スコア:2/2/0.6/2/2/1.3、結膜浮腫スコア:0/0.3/0/0.6/0.6/0)との報告がある(ECHA RAC Opinion (2020)、CLH Reporrt (2019))。
呼吸器感作性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
【分類根拠】 (1)より、区分に該当しない。
【根拠データ】 (1)モルモット(n=20)を用いたMaximisation試験(OECD TG 406、皮内投与:5%溶液)において、惹起24、48時間後の陽性率はともに0%(0/19例)であったとの報告がある(ECHA RAC Opinion (2020)、CLH Report (2019))。
生殖細胞変異原性
【分類根拠】 (1)、(2)より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1)in vivoでは、マウスの骨髄細胞を用いた小核試験(OECD TG474、GLP:2日間強制経口投与)では、最大1,600 mg/kgの用量まで小核誘発性は認められず、陰性と判断された(EU CLP CLH (2020)、REACH登録情報 (Accessed 2023))。 (2)in vitroでは、細菌を用いた復帰突然変異試験(OECD TG471、GLP)、及びマウスリンパ腫細胞L5178Yを用いた遺伝子変異試験(OECD TG476、GLP)で、代謝活性化の有無に関わらず陰性の報告がある(EU CLP CLH (2020)、REACH登録情報 (Accessed 2023))。
【参考データ等】 (3)臭化ナトリウムについて、in vitroでは、細菌を用いた復帰突然変異試験(OECD TG471、GLP)及びほ乳類の培養細胞を用いた染色体異常試験で、陰性(S9+/-)の報告がある(EU CLP CLH (2020)、REACH登録情報 (Accessed 2023))。
発がん性
【分類根拠】 データ不足ため分類できない。
生殖毒性
【分類根拠】 ヒトの生殖発生影響に関しては、臭化物の限られた情報からは確定的な分類はできない。実験動物では、(1)、(2)より、母動物に一般毒性影響がみられない用量で胎児に骨格異常、精巣の位置異常、腎臓等内臓の異常の発生頻度増加がみられること、(3)より、例数が少ないため結果の精度は劣るものの、母動物毒性が最小限又は母動物が耐えられる用量範囲で受胎率の低下がみられたことから、区分1Bとした。さらに、本物質自体のデータはないが、臭化物をラットの哺育期に飲水投与した試験結果(4)、(5)及びヒトの知見(6)より、授乳を介した影響が示唆され、本物質にも適用可能と考えた。よって、追加区分として授乳影響を採用した。
【根拠データ】 (1)ラットを用いた強制経口投与による発生毒性試験(OECD TG414、GLP、100~1000 mg/kg/day)において、母動物毒性がみられない低用量(100 mg/kg/day)から、胎児に骨格異常(捻転肋骨、肋骨の不完全骨化)及び精巣の位置異常の用量依存的な発生頻度増加がみられ、母動物毒性(切迫と殺1/24例、全身・神経毒性症状(歩行異常、不活発、円背姿勢、立毛等)、体重増加抑制)がみられる高用量(1,000 mg/kg/day)では、加えて矮小児、骨格奇形(湾曲肩甲骨)、内臓奇形(腎臓の矮小/欠損/位置異常/嚢胞、甲状腺の縮小/欠損、卵巣の形態異常を伴う子宮角の狭窄等)の発生頻度増加がみられたとの報告がある(EU CLP CLH (2020)、REACH登録情報 (Accessed Jan. 2023))。 (2)ラットを用いた強制経口投与による発生毒性試験の用量設定予備試験(OECD TG414、GLP、50~800 mg/kg/day)において、母動物に切迫と殺(1/22例)及び全身・神経毒性症状がみられた用量(600 mg/kg/day)よりも1つ下の用量(300 mg/kg/day)から、胎児に骨格異常(捻転肋骨、湾曲肋骨、肋骨の不完全骨化)が用量依存的にみられたとの報告がある(EU CLP CLH (2020)、REACH登録情報 (Accessed Jan. 2023))。 (3)ラットを用いた混餌投与による生殖毒性試験の用量設定試験(GLP、600~6,400 ppm)において、雄親動物には体重及び摂餌量の低下がみられたが、雌親動物には哺育期間中の摂餌量減少だけがみられた中用量(3,200 ppm)で、受胎率の低下(妊娠成立雌:90%)及び妊娠期間の延長、及び出生児の死亡率増加(哺育期間中に死亡した9腹中4腹で全児死亡)がみられたとの報告がある。雌親動物に全身毒性(神経毒性症状及び体重増加抑制(妊娠期間中))がみられた高用量(6,400 ppm)では、受胎率の著しい低下(妊娠成立雌:10%)がみられ、受胎した1例の同腹児も哺育4日までに全児死亡したとの報告がある(EU CLP CLH (2020)、REACH登録情報 (Accessed Jan. 2023))。 (4)臭化物ナトリウム及び臭化カリウム塩について、ラットを用いた飲水経口投与による哺育及び乳汁分泌への影響検討試験(300、900 mg Br/kg/day相当)において、母動物毒性(死亡1/5例、体重増加抑制等)がみられた高用量群(900 mg Br/kg/day相当)で、乳汁産生量の減少及び乳汁組成の変化(母乳中の塩素含量の54%が臭素に置換)がみられ、出生児には生存率低下(-44%)及び体重低下(-35%)がみられたとの報告がある(EU CLP CLH (2020)、REACH登録情報 (Accessed Jan. 2023))。 (5)臭化物(化合物名不明)について、ラットを用いた飲水経口投与による哺育及び乳汁分泌への影響検討試験(1、5 g Br/L)において、母体体重に影響のない高用量群(5 g Br/L)で、哺育10日及び同15日に乳汁産生量の減少(最大-70%)がみられ、児の体重も減少(-29%)したとの報告がある(EU CLP CLH (2020)、REACH登録情報 (Accessed Jan. 2023))。 (6)テンプル大学病院の分娩病棟の患者10人の母親が臭化ナトリウム5.4 g/dayを(分娩後6日目以降)3~5日間摂取後に、授乳影響として患者の乳児に過敏性、微睡、眠気、泣き声を発しない、顔の発疹等の症状がみられたとの報告がある(EU CLP CLH (2020)、REACH登録情報 (Accessed Jan. 2023))。
【参考データ等】 (7)ヒトでは、全妊娠期間を通して臭化物にばく露された乳児で発達期の成長遅延(身長、体重、頭囲)を示唆する症例報告がある。しかしながら、全体的に臭化物がヒト胎児の発生・発達に有害影響を示し、発生毒性があるとする十分に強固な研究報告はない(EU CLP CLH (2020))。 (8)臭化物(臭化ナトリウム/臭化カリウム/臭化アンモニウム(本物質))を主成分とする鎮静剤を妊娠中に摂取し、後に重度の臭素中毒症を生じた母親から生まれた乳児に、経胎盤移行性の臭素中毒として中枢神経系抑制(顕著な低活動性、泣き声や哺乳が少ない等)がみられたとの複数の症例報告がある(EU CLP CLH (2020)、REACH登録情報 (Accessed 2023))。(7)と併せて、本物質の胎生期ばく露によるヒト出生児への影響は神経毒性症状など一般毒性影響が主体であるが、(6)より、授乳期に本物質にばく露された場合には母乳を介して神経系症状が発現すると考えられる。 (9)EUではRepr. 1B、Lact.に分類提案されている(EU CLP CLH (2020))。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
【分類根拠】 (1)より、区分2の用量範囲で神経系影響(強直性痙攣)がみられることから区分2(神経系)、嗜眠がみられることから区分3(麻酔作用)と考えられる。よって、区分2(神経系)、区分3(麻酔作用)とした。
【根拠データ】 (1)ラットを用いた単回経口投与試験(OECD TG 401)において、2,000 mg/kg(区分2の範囲)で、嗜眠(雄:5/5例)、自発運動減少(雌雄:各5/5例)、腹臥位/円背姿勢(雄:5/5例)、運動失調(雌雄:各5/5例)、呼吸困難、意識喪失、強直性痙攣がみられたとの報告がある(CLP Report (2020)、REACH登録情報 (Accessed Jan. 2023))。
【参考データ等】 (2)臭化ナトリウム(CASRN:7647-15-6)を被験物質とした、ラットを用いた単回経口投与試験において、3,200 mg/kg(区分に該当しない範囲)で投与後に立毛、円背姿勢、異常歩行、嗜眠、呼吸数減少、眼瞼下垂、四肢の蒼白、衰弱等の症状がみられたとの報告がある(CLP Report (2020)、REACH登録情報 (Accessed Jan. 2023))。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
【分類根拠】 (1)より、ヒトにおいて中枢神経系影響がみられることから、区分1(中枢神経系)とした。
【根拠データ】 (1)臭化物(臭化ナトリウム/臭化カリウム/臭化アンモニウム(本物質))を主成分とする鎮静剤を妊娠中に摂取し、後に重度の臭素中毒症を生じた母親から生まれた乳児に、経胎盤移行性の臭素中毒として中枢神経系抑制(顕著な低活動性、泣き声や哺乳が少ない等)がみられたとの複数の症例報告がある(CLH Report (2020)、REACH登録情報 (Accessed Jan. 2023))。
【参考データ等】 (2)ラットを用いた混餌投与による90日間反復経口投与試験(OECD TG 408、GLP)において、225 mg/kg/day(区分に該当しない範囲)以上の雄及び750 mg/kg/day(区分に該当しない範囲)の雌に体重増加抑制、服従行動、歩行異常(千鳥足歩行、よろめき歩行)、雄には精巣重量減少、精巣上体重量減少がみられたとの報告がある(CLP Report (2020)、REACH登録情報 (Accessed Jan. 2023))。 (3)ラットを用いた混餌投与による4週間反復経口投与試験において、500 mg/kg/day(90日換算:156 mg/kg/day、区分に該当しない範囲)以上で神経毒性症状(歩行異常(千鳥足))がみられたとの報告がある(CLH Report (2020)、REACH登録情報 (Accessed Jan. 2023))。 (4)臭化ナトリウムを被験物質とした、イヌを用いたカプセル投与による6週間反復経口投与試験において、200 mg/kg/day(90日換算:93.3 mg/kg/day、区分2の範囲)以上で神経毒性症状(運動失調、昏睡、振え)がみられたとの報告がある(CLH Report (2020)、REACH登録情報 (Accessed Jan. 2023))。
誤えん有害性*
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。