急性毒性
経口
本物質はエチルベンゼンを含む異性体混合物として分類した。 ラットのLD50値として、3,500-8,800 mg/kgの範囲内での複数の報告 (NITE有害性評価書 (2008)、ATSDR (2007)、EPA Pesticide (2005)、環境省リスク評価第1巻 (2002)、ACGIH (7th, 2001)、CEPA (1993)、DFGOT vol. 5 (1993)、ECETOC JACC (1986)) に基づき、区分外 (国連分類基準の区分5又は区分外) とした。新たな情報源 (NITE有害性評価書 (2008)、ATSDR (2007)、EPA Pesticide (2005)、ACGIH (7th, 2001)、DFGOT vol. 5 (1993)、ECETOC JACC (1986)) を追加し、区分を見直した。
経皮
ウサギのLD50値として、1,700 mg/kg (EPA Pesticide (2005))、4,300 mg/kg (ACGIH (7th, 2001)) との2件の報告がある。それぞれ区分4及び区分外 (国連分類基準の区分5) に該当するので、LD50値の小さい方が該当する区分4とした。新たな情報源 (EPA Pesticide (2005)、ACGIH (7th, 2001)) を追加し、区分を見直した。
吸入:ガス
GHSの定義における固体である。
吸入:蒸気
ラットのLC50値 (4時間) として、6,350-6,700 ppmの範囲内での複数の報告 (NITE有害性評価書 (2008)、ATSDR (2007)、環境省リスク評価第1巻 (2002)、ACGIH (7th, 2001)、産衛学会許容濃度の提案理由書 (2001)、ECETOC JACC (1986)、NTP TR327 (1986)、DFGOT vol. 5 (1993)) に基づき、区分4とした。なお、各報告での異性体混合率は不明であるが、主成分と思われるm-異性体の蒸気圧を用いて飽和蒸気圧濃度 (7,897 ppm) を得た。LC50値がこの飽和蒸気圧濃度の90%よりも低いため、ミストを含まないものとしてppmを単位とする基準値を適用した。新たな情報源 NITE有害性評価書 (2008)、ATSDR (2007)、ACGIH (7th, 2001)、産衛学会許容濃度の提案理由書 (2001)、ECETOC JACC (1986)、NTP TR327 (1986)、DFGOT vol. 5 (1993)) を追加した。また、旧分類における区分4の設定値2,500-5,000 ppmが2,500-20,000 ppmに変更されたために、区分を変更した。
吸入:粉じん及びミスト
データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
本物質をウサギの皮膚に適用した結果 (適用時間は不明)、紅斑、浮腫、壊死がみられたとの報告 (NITE有害性評価書 (2008)) のほかに、ウサギ、マウス及びモルモットに本物質を適用した結果 (適用時間は不明)、軽度から強度の刺激がみられた (ATSDR (2007)) との報告があるが、いずれも回復性についての記載はない。以上より区分2とした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
本物質の原液0.05から0.5 mL をウサギの眼に適用した結果、軽度の結膜刺激性と軽微な角膜壊死による不快、間代性眼瞼痙攣がみられたとの報告や (NITE有害性評価書 (2008)、EHC 190 (1997))、本物質0.1 mL (87 mg) を適用した結果、軽度から中等度の刺激性がみられたとの報告がある (NITE有害性評価書 (2008)、ATSDR (2007))。その他にウサギを用いた眼刺激性試験の報告が複数あり、軽度から中等度の影響がみられたとの報告がある (NITE有害性評価書 (2008)、EHC 190 (1997))。以上の結果から区分2とした。
呼吸器感作性
データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
データ不足のため分類できない。なお、ボランティア24人に行った試験で感作性はみられなかったとの報告があるが (NITE有害性評価書 (2008))、詳細不明であるため区分に用いるには不十分なデータと判断した。
生殖細胞変異原性
ガイダンスの改訂により「区分外」が選択できなくなったため、「分類できない」とした。すなわち、in vivoでは、ラット及びマウスの優性致死試験、マウス骨髄細胞の小核試験、ラット、マウスの骨髄細胞の染色体異常試験、ヒトのボランティアの末梢血を用いた姉妹染色分体交換試験でいずれも陰性である (NITE有害性評価書 (2008)、ATSDR (2007)、ECETOC JACC 006 (1986)、EHC 190 (1997)、IARC 71 (1989)、ACGIH (7th, 2001)、DFGOT vol.15 (2001))。In vitroでは、細菌の復帰突然変異試験で陰性、哺乳類培養細胞のマウスリンフォーマ試験で陽性1件のほかすべて陰性、ヒト末梢血及び哺乳類培養細胞の染色体異常試験で陰性である (NITE有害性評価書 (2008)、ACGIH (7th, 2001)、ATSDR (2007)、EHC 190 (1997)、IARC 71 (1989)、ECETOC JACC 006 (1986)、NTP TR327 (1986)、CEPA (1993))。
発がん性
IARCでグループ3 (IARC (1999))、ACGIHでA4 (ACGIH (7th, 2001))、EPAでI (EPA IRIS (2003)) に分類されていることから、「分類できない」とした。
生殖毒性
工業用キシレン (エチルベンゼンを含む異性体混合物) について情報が得られた。 ラットを用いた異性体混合物の吸入経路での催奇形性試験において、母動物性がみられない用量でわずかな胎児に対する影響 (胎児体重の減少) がみられたとの報告 (ATSDR (2007)) がある。また、母動物毒性に関する記載がない、あるいは、試験条件等に批判はあるものの、ラットを用いた異性体混合物の吸入経路での催奇形性試験において、母動物毒性がない用量で吸収胚の増加がみられたとの報告 (ATSDR (2007))、ラットを用いた異性体混合物の吸入経路での催奇形性試験において、母動物毒性は不明であるが胎児に吸収胚の増加、小眼、水頭症がみられたとの報告 (NITE有害性評価書 (2008)、EHC 190 (1997)、ATSDR (2007)) がある。 さらに、工業用キシレンには通常エチルベンゼンが含有されており、エチルベンゼンの生殖毒性試験では、マウスを用いた吸入経路での催奇形性試験において母動物毒性がみられない用量で尿路系の奇形 (奇形についての具体的な記載なし) の増加、ラットを用いた吸入経路での催奇形性試験において母動物毒性は不明であるが尿路系の奇形 (奇形についての具体的な記載なし) の増加、ウサギを用いた吸入経路での催奇形性試験において弱い母動物毒性 (体重増加抑制) がみられた用量で流産 (3例中3例) がみれたとの報告がある (ATSDR (2010)、初期リスク評価書 (2007)、SIDS (2005)、環境省リスク評価第1巻 (2002))。 したがって、区分1Bとした。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
ヒトについては事故例や職業ばく露等による吸入、経口経路の複数のデータがある。吸入ばく露では、気道刺激、頭痛、吐き気、嘔吐、めまい、昏睡、麻酔作用、協調運動失調、中枢神経系障害、反応低下、疲労感、興奮、錯乱、振戦、死亡例では呼吸困難、意識混濁、記憶障害、重度の呼吸器傷害 (肺うっ血、肺胞出血及び肺浮腫)、肝傷害 (肝臓の腫大を伴ううっ血及び小葉中心性の肝細胞の空胞化)、腎傷害、脳の神経細胞損傷がみられ、同事例での生存者においても、四肢のチアノーゼ、肝臓傷害及び重度の腎傷害、記憶喪失の症状がみられたとの報告がある。経口ばく露では、昏睡、急性肺水腫、肝臓の損傷、吐血、肺のうっ血、浮腫、中枢性の呼吸抑制が原因で死亡の報告がある (NITE有害性評価書 (2008)、ATSDR (2007)、環境省リスク評価第1巻 (2002)、ACGIH (7th, 2001)、EHC 190 (1997)、DFGOT vol.15 (2001)、ECETOC JACC (1986))。 実験動物では、ラットの1300 ppm吸入ばく露で協調運動失調、ラットの6,000 mg/kg経口投与で鈍麻、知覚麻痺、昏睡など中枢神経毒性の報告があるほか、用量等ばく露条件不明であるが、ラット、マウス等で麻酔作用、衰弱、後肢運動減少、円背位姿勢、刺激過敏性、振戦、衰弱、努力呼吸、呼吸数低下、筋肉痙攣、視覚及び聴覚の障害、肺の浮腫、肺の出血・炎症、肝臓相対重量増加など肝毒性を示唆する所見 (NITE有害性評価書 (2008)、ATSDR (2007)) がある。また、急性ばく露による動物への影響は、神経系、肺、肝臓である (CEPA (1993)) との記載、ラット、マウスで、経口、吸入、経皮の急毒症状は中枢神経系抑制である (SIAP (2003)、ATSDR (2007)) との記載もある。 以上より、本物質は麻酔作用があるほか、中枢神経系、呼吸器、肝臓、腎臓に影響を与えるため、区分1 (中枢神経系、呼吸器、肝臓、腎臓)、区分3 (麻酔作用) とした。 (なお、この分類結果は、キシレン異性体個別のデータではなく、キシレン混合物 (Xylenes, 組成不明のキシレンを含む) を用いたデータである。異性体単独のデータは別途それらの分類を参照のこと。)
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
総ばく露量の70%以上をキシレン異性体混合物が占める溶剤 (キシレン以外にトルエン、エチルベンゼンを含むがベンゼンは含まない) への吸入ばく露 (幾何平均濃度 14 ppm、平均ばく露年数7年) により、非ばく露群と比較して、不安、健忘、集中力の低下、めまい、吐き気、食欲不振、握力低下、筋力低下の発生頻度の有意な増加がみられた。しかし、血液検査項目、並びに肝機能の指標など血液生化学検査の測定項目には有意差はみられなかった (NITE有害性評価書 (2008)、ATSDR (2007))。また、職場でキシレンに慢性的にばく露された結果、努力呼吸、肺機能障害がみられたとの報告、キシレン製造工場の作業者 (15-40 ppm、6ヶ月-5年間) の33%に頭痛、興奮、不眠症、消化不良、心拍数上昇が、20%に神経衰弱、自律神経失調症がみられたとの報告、さらにキシレンを溶剤として扱う塗装業者を対象とした疫学調査で、頭痛、記憶喪失、疲労感や溶剤による脳症、神経衰弱症、脳機能の低下、脳波の異常、器質的精神障害及び痴呆などの発症がみられたとの報告 (NITE有害性評価書 (2008)、ATSDR (2007)) などがあり、キシレン以外の物質を含む複合ばく露影響による報告例が多いが、ばく露状況を考慮しても本物質単独影響として慢性吸入ばく露により、神経系及び呼吸器系への有害影響が発生するおそれがあると考えられる。この他、従前は血液系への影響 (貧血、白血球減少など) も懸念されたが、溶剤中に混入したベンゼンによる影響の可能性があり、冒頭のベンゼンを含まないことが明白なばく露症例による報告では血液検査で異常はみられていないと記述されている (ATSDR (2007))。 一方、実験動物では、本物質 (蒸気と推定) をラットに6週-2年間吸入ばく露した複数の反復投与試験 (ガイダンス値換算: 1.30-5.23 mg/L/6時間 (最小影響濃度))、及びイヌの13週間吸入ばく露試験 (同 3.51 mg/L/6時間 (最大無影響濃度)) で、いずれもガイダンス値範囲内を上回る濃度まで無影響であり、標的臓器を特定可能な所見は得られていない (NITE初期リスク評価書 (2005))。 以上より、ヒトでの知見に基づき、区分1 (神経系、呼吸器) に分類した。
吸引性呼吸器有害性
炭化水素であり、動粘性率は混合物のため基になる数値が得られず求められないが、o-、m-、及びp-異性体の各動粘性率計算値 (25℃) は各々0.86、0.67、及び0.70 mm2/s (HSDB (Access on December 2014) 中の粘性率と密度の数値より算出) とほぼ同様の低値を示すことから、混合物の動粘性率も各異性体の値と大きく異なることはないと推定される。よって区分1に分類した。