急性毒性
経口
GHS分類: 分類対象外
GHSの定義におけるガスである。なお、本物質0.2%溶液のラットのLD50値として、94 mg/kg (OECD TG 401) (SIDS (2009)、CICAD 37 (2002)) との報告がある。
経皮
GHS分類: 分類対象外
GHSの定義におけるガスである。なお、本物質5%溶液をラットに24時間閉塞適用したLD50値として、> 2,000 mg/kg (GESTIS (Access on Sptember 2015)) との報告がある。
吸入:ガス
GHS分類: 区分1
ラットのLC50値 (4時間) (OECD TG 403) として、32 ppmとの報告 (SIDS (2009)、CICAD 37 (2002)) に基づき、区分1とした。
吸入:蒸気
GHS分類: 分類対象外
GHSの定義におけるガスである。
吸入:粉じん及びミスト
GHS分類: 分類対象外
GHSの定義におけるガスである。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
GHS分類: 分類できない
データ不足のため分類できない。なお、マウスに本物質を含む水溶液 (9.7~11.4 mg/L) を48時間適用した結果、刺激性はみられなかったとの報告 (ATSDR (2004)) がある一方で、ウサギに本物質 (80%) を24時間適用した結果、刺激性がみられたとの報告 (EPA Pesticide (2006)) がある。これらの報告は、低濃度の試験や24時間適用の試験であるため分類には用いなかった。なお、ウサギを用いた皮膚刺激性試験 (OECD TG404) において、本物質のナトリウム塩である亜塩素酸ナトリウム (CAS番号: 7758-19-2、34.5%) を適用した結果、刺激性はみられなかったとの報告がある (SIDS (2009))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
GHS分類: 区分2B
ウサギを用いた眼刺激性試験 (OPPTS 870.2400) において、本物質適用により軽度の刺激性がみられたとの報告がある (EPA Pesticide (2006))。また、ガス状の本物質にばく露された結果 (動物種不明)、 眼脂がみられたとの報告や (CICAD 37 (2002))、ヒトにおいて高濃度の単回ばく露により眼刺激性がみられたとの報告がある (CICAD 37 (2002))。ウサギを用いた眼刺激性試験において、軽度の刺激性が報告されていることから区分2Bとした。
呼吸器感作性
GHS分類: 分類できない
データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
GHS分類: 分類できない
データ不足のため分類できない。なお、モルモットを用いた感作性試験 (OECD TG406、GLP準拠) において、本物質のナトリウム塩である亜塩素酸ナトリウム (CAS番号: 7758-19-2) を適用した結果、感作性は認められなかったとの報告がある (SIDS (2006))。
生殖細胞変異原性
GHS分類: 分類できない
In vivoでは、ラット、マウスの優性致死試験で陰性、マウス骨髄細胞の小核試験で陽性、陰性の結果、マウス骨髄細胞の染色体異常試験で陰性、マウス骨髄細胞の姉妹染色分体交換試験で陰性である (SIDS (2009)、IRIS Summary (2000)、IRIS Tox. Review (2000)、ATSDR (2004)、CICAD 37 (2002)、ACGIH (7th, 2001))。In vitroでは、細菌の復帰突然変異試験で陽性、陰性の結果、哺乳類培養細胞のマウスリンフォーマ試験で陽性、染色体異常試験で陽性、陰性の結果である (IRIS Summary (2000)、IRIS Tox. Review (2000)、ATSDR (2004)、SIDS (2009)、CICAD 37 (2002))。SIDS (2009) ではin vivoで多くの陰性結果があり、本物質は遺伝毒性 (変異原性) を有する可能性は低いと評価している。以上より、ガイダンスに従い、分類できないとした。
発がん性
GHS分類: 分類できない
ヒトでの発がん性に関する情報はない。実験動物では水を本物質で消毒後濃縮し、本物質残渣を含む水濃縮物を3回/週、2週間マウスに強制経口投与後、既知発がん物質のTPA (12-tetradecanylphorbal-13-acetate) を20週間経皮適用した2段階発がん性試験において、皮膚腫瘍数の有意な増加はみられなかった (SIDS (2009))。また、本物質ナトリウム塩 (亜塩素酸ナトリウム) をマウスに250、500 mg/L (36、71 mg/kg/day 相当) の用量で80週間飲水投与した発がん性試験では、高用量群で肺腺腫の頻度増加 (5/43 (12%) vs 対照群: 0/35 (0%)) がみられたものの、用量相関性を欠き、かつ悪性腫瘍がみられていないことから、SIDSは亜塩素酸ナトリウムはマウスでは発がん性を示さないとの著者らの結論を記述している (SIDS (2009))。国際機関による発がん性分類結果としては、EPAが1986年ガイドラインの基準ではD (Not classifiable as to human carcinogenicity) に、1996年ガイドラインの基準ではCBD (Carcinogenic potential cannot be determined) に該当するとした (IRIS Summary (2000)) が、他の機関による分類はなされていない。
以上より、分類ガイダンスに基づき、本項は分類できないとした。
生殖毒性
一方、実験動物ではラットに本物質の水溶液を雄に交配前8週間、雌には交配前2週間、及び交配、妊娠期間を経て哺育5日まで、最大10 mg/kg/day を強制経口投与した1世代試験において、親動物の生殖能に影響はなく、児動物にも同腹児数、離乳までの生存率、離乳時の生殖器官重量に対照群と差異はみられず、親動物、児動物に対するNOAELはともに10 mg/kg/dayであったと報告されている (SIDS (2009)、IRIS Tox. Review (2000)、CICAD 37 (2002))。しかしながら、発生毒性影響としては、ラット (SD系) に交配2週間前から児動物が離乳する生後21日まで、本物質を経口 (飲水) 経路で投与した試験において、100 ppm (約14 mg/kg/day) では、児動物に離乳時までの体重の低値推移、自発運動の減少、離乳時の小脳DNA含量の減少、及び離乳時の血清T4値の減少がみられ、母動物への飲水を介した本物質ばく露による神経行動影響に対するLOAELは14 mg/kg/day、同NOAELは3 mg/kg/dayと設定されている (SIDS (2009)、IRIS Tox. Review (2000)、CICAD 37 (2002))。 なお、別系統 (Long-Evans) のラット母動物に対し、14 mg/kg/dayを強制経口投与 (分娩後、新生児の生後0~21日相当日 (離乳時) まで) し、新生児を生後35日まで観察した試験においても、児動物の体重の低値推移、離乳時及び生後35日における大脳の絶対重量、DNA含量、タンパク含量の減少がみられたとの報告がある (SIDS (2009)、IRIS Tox. Review (2000)、CICAD 37 (2002))。
GHS分類: 区分1B
追加区分:授乳に対する、又は授乳を介した影響、
米国の複数の病院で1940~1955年に生まれた新生児の疾病率と死亡率との記録を調べた遡及的疫学研究の結果、本物質が混入した水道水を摂取した近隣の病院患者の集団では、本物質を含まない水道水を摂取した病院患者の集団と比べて、早産の発生率が有意に高いと報告されたが、早産の判定は医師の評価によるもので客観的な判断基準を欠いており、また、早産の頻度は病院間で大きく異なっていた。さらに、本物質へのばく露の程度についても情報がなく、交絡因子についての解析も不十分なため、本結果から結論を導くことはできないと報告されている (CICAD 37 (2002))。この他、ヒトでの生殖影響に関する有用な知見はない。
以上、実験動物では本物質水溶液を妊娠期、又は授乳期に経口経路で投与されたラットでは、児動物の生後の成長及び脳神経系発達障害を示唆する所見が示され、甲状腺ホルモンなど内分泌系の関与を介した影響の可能性が想定されている (SIDS (2009)、ATSDR (2004))。ただし、SIDSは上記の複数の発生毒性試験がGLP対応のガイドライン試験でなく、限定的なプロトコールの試験であること、本物質ナトリウム塩 (亜塩素酸ナトリウム) を用いたラット2世代生殖毒性試験ではF1児動物の生後25日の検査において、血清T3及びT4値に変化はなく、本物質を用いた発生毒性試験結果と矛盾することを指摘し、以上の発生毒性試験はキースタディとは扱えないと慎重な判断を下している (SIDS (2009))。これに対し、ATSDRでは本物質経口ばく露による神経発達毒性影響を重視し、SIDSが引用した上記の亜塩素酸ナトリウムを用いたラット飲水投与による2世代生殖毒性試験において、中用量投与 (6 mg/kg/day) した親動物から生まれたF1児動物の聴覚驚愕刺激に対する反応性低下 (生後24日) を発達神経毒性影響として扱い、この所見を基に最小リスクレベル (経口MRL) の算出根拠としている (ATSDR (2004))。以上より、妊娠期・授乳期への本物質ばく露は低用量から新生児に神経系発達障害を及ぼす可能性があることから、本項は区分1Bとし、授乳影響を追加した。