急性毒性
経口
ラットのLD50値として、2,900 mg/kg (環境省リスク評価第2巻:暫定的有害性評価シート (2003))、3,390 mg/kg (PATTY (6th, 2012))、3,930 mg/kg (EHC 115 (1990)、ACGIH (7th, 2006)、DFGOT vol. 6 (1994)、PATTY (6th, 2012))、3,930-4,300 mg/kg (ECETOC TR95 (2005))、4,300 mg/kg (NITE初期リスク評価書 (2008)) との報告に基づき、区分外 (国連分類基準の区分5) とした。
経皮
ウサギのLD50値として、5,214 mL/kg (5,285 mg/kg) (DFGOT vol. 6 (1994))、5,290 mg/kg (PATTY (6th, 2012))、5,557 mg/kg (ACGIH (7th, 2006)、EHC 115 (1990)、ECETOC TR95 (2005))、5,240-5,560 mg/kg (NITE初期リスク評価書 (2008)) との報告に基づき、区分外とした。
吸入:ガス
GHSの定義における液体である。
吸入:蒸気
データ不足のため分類できない。なお、旧分類は、ラットのLC50値 (4時間) として、700 ppm との報告 (HSDB (Access on July 2014)) に基づき区分3としているが、HSDB (Access on July 2014) の引用元はPATTY (5th, 2001) であり、PATTY (6th, 2012) への改訂の際に本データが削除されていること、及びPATTY (5th, 2001) の原著 (Journal of Industrial Hygiene and Toxicology. 30, 63, 1948) には、LC50値 (4時間) として、7,000 ppm と掲載されていたため、HSDB (Access on July 2014) の報告を採用せずに、分類できないとした。なお、LC50値が飽和蒸気圧濃度 (2,665 ppm) の90%より低いため、ミストを含まないものとしてppmを単位とする基準値を適用した。
吸入:粉じん及びミスト
ラットのLCLo値 (4時間) として、7,000 ppm (=33.8mg/L) (環境省リスク評価第2巻:暫定的有害性評価シート (2003)) との報告に基づき、区分外とした。なお、LCLo値が飽和蒸気圧濃度(2,665 ppm=12.9 mg/L) より高いため、ミストの基準値を適用した。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
ウサギを用いた皮膚刺激性試験 (EEC法) において0.5mLを刈毛した腹側部に4時間閉塞適用した結果、刺激性はみられなかったとの報告 (NITE初期リスク評価書 (2008)) があることから区分外とした。なお、24時間の閉塞適用した試験 (ドレイズ試験法) では軽度の刺激性との結果 (NITE初期リスク評価書 (2008)) がある。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
ウサギを用いた眼刺激性試験において、「軽度の刺激性」と報告されている (ACGIH (7th, 2006)、DEFGOT vol.6 (1996)) ことから、区分2Bとした。
呼吸器感作性
データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
データ不足のため分類できない。なお、58 歳の女性が眼鏡と接触した鼻部で皮膚炎を起こした事例が報告されており、眼鏡本体とパッドを接着するために使われた酢酸 2-メトキシエチルによるものと考えられている (NITE初期リスク評価書 (2008)、PATTY (6th, 2012)) が、1例のみの報告であるため分類に用いるには不十分なデータと判断した。
生殖細胞変異原性
ガイダンスの改訂により「区分外」が選択できなくなったため、「分類できない」とした。すなわち、in vivoでは、チャイニーズハムスターの腹腔内投与による骨髄細胞の小核試験で陰性の結果である (NITE初期リスク評価書 (2008)、ECETOC TR95 (2005)、産衛学会許容濃度の提案理由書 (2009))。In vitroでは、細菌の復帰突然変異試験、哺乳類培養細胞の染色体異常試験、姉妹染色分体交換試験で陰性並びに陽性結果が存在するが、陽性結果は高い用量で報告されている(NITE初期リスク評価書 (2008)、ECETOC TR95 (2005)、産衛学会許容濃度の提案理由書 (2009)、NTP DB (Access on July 2014))。
発がん性
データ不足のため分類できない。
生殖毒性
マウスを用いた経口経路 (強制) での催奇形性試験において、母動物影響を及ぼさない用量 (1,225 mg/kg bw/day) において全胚吸収がみられた (NITE初期リスク評価書 (2008)、ECETOC TR95 (2005))。エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート (EGMEA) の生殖影響に関する情報は少ない。しかし、EGMEAは体内で速やかにエチレングリコールモノメチルエーテル (EGME) に代謝される (産衛学会許容濃度の提案理由書 (2009))。また、産業衛生学会許容濃度等の勧告(2013) で、生殖毒性第1群物質 (ヒトに対して生殖毒性を示すことが知られている物質) にリストアップされている(2013年提案暫定)。したがって、区分1Aとした。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
本物質のヒトへの単回急性影響のデータはない。 ウサギ、ネコに 450 ppmの濃度で 8 時間吸入ばく露した試験で、腎障害により死亡したと報告されている (NITE初期リスク評価書 (2008))。その他の経路における報告はない。 なお、DFGOT vol. 6 (1994) は、ラット、モルモット、ウサギにおいて、本物質が、急性毒性で死亡した原因として、代謝性アシドーシス、腎毒性、中枢神経系への影響としているが、詳細な記載はない。 ECETOC TR95 (2005) は、「本物質は、急速にエチレングリコールモノメチルエーテル (EGME; CAS No: 109-86-4) に開裂する。EGMEには明らかな中枢神経系への毒性があるため、本物質においても中枢神経系への影響が考えられる。」との記載がある。 エチレングリコールモノメチルエーテルには、中枢神経系、血液系、気道刺激性、麻酔作用が影響として認められる。従って、本物質に関する直接的な情報はないが、EGMEによる影響の可能性があると考えられ、EGMEの区分1 (中枢神経系、血液系、腎臓)、区分3 (気道刺激性、麻酔作用) を本物質の区分とみなすことが合理的と考えられるが、本物質は吸収後EGMEに変化すると想定し、区分3 (気道刺激性) は採用しなかった。以上より、区分1 (中枢神経系、血液系、腎臓)、区分3 (麻酔作用) とした。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
本物質はエチレングリコールモノメチルエーテル (EGME; CAS No. 109-86-4) の酢酸エステルであり、生体内では加水分解され、速やかにEGMEを生成し、さらにアルコール脱水素酵素及びアルデヒド脱水素酵素により酸化されて、2-メトキシ酢酸 (MAA) に転換する。MAA又はMAAのグリシン抱合体が活性代謝物と考えられている (ECETOC TR 95 (2005)、NITE初期リスク評価書 (2008)、CICAD 96 (2010))。すなわち、本物質も体内に吸収後はEGMEと同様の挙動を示し、同様の生体反応を示すと考えられることから、本物質の反復投与毒性はEGMEのそれと差がないものと考えられる。ただし、本物質の反復ばく露による知見は極めて限定されており、ヒトに関して信頼性のある知見はない。 実験動物に関しては、雄マウスに5週間経口投与した試験で、区分外の高用量(500 mg/kg/day: 192 mg/kg/day (90日換算値)) で、精巣萎縮及び白血球数減少がみられたとの報告がある(DFGOT vol. 6 (1994)、ECETOC TR 95 (2005)、NITE初期リスク評価書 (2008)、CICAD 96 (2010))。 ヒトでは実験動物(妊娠ラット及び妊娠サル) より、活性代謝物の消失半減期がかなり長く、体内に残留する時間が長く (CICAD 67 (2010))、実験動物より毒性が強く発現する可能性が考えられることから、マウスのデータ以外に直接的な証拠はないが、EGMEと同様に精巣毒性及び血液影響を生じる懸念があり、よって区分1 (血液系、精巣) とした。 なお、旧分類はList外の実験動物のデータのみから分類され、今回は代謝・体内動態の知見も合わせて判断したため分類結果が異なった。
吸引性呼吸器有害性
データ不足のため分類できない。