急性毒性
経口
【分類根拠】 (1)~(4)より、有害性の高い区分を採用し、区分4とした。
【根拠データ】 (1)ラットのLD50:1,900 mg/kg(MOE初期評価 (2019)、NTP TR533 (2006)) (2)ラットのLD50:> 10,000 mg/kg(MOE初期評価 (2019)、AICIS IMAP (2015)、NTP TR533 (2006))
経皮
【分類根拠】 (1)、(2)より、区分に該当しない。
【根拠データ】 (1)ウサギのLD50:3,535 mg/kg(MOE初期評価 (2019)、NTP TR533 (2006)) (2)ウサギのLD50:> 2,000 mg/kg(AICIS IMAP (2015))
吸入: ガス
【分類根拠】 GHSの定義における固体であり、区分に該当しない。
吸入: 蒸気
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
吸入: 粉じん及びミスト
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
【分類根拠】 (1)より、区分に該当しない。なお、新たな知見に基づき、分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1)ウサギ(n=4)を用いた皮膚刺激性試験(OECD TG 404、GLP、2~100%(原液)、半閉塞、4時間適用、72時間観察)において、濃度100%まで皮膚刺激性の徴候は認められなかったとの報告がある(AICIS IMAP (2015)、REACH登録情報 (Accessed Dec. 2021))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】 (1)~(3)より、区分に該当しない。なお、新たな知見に基づき、分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1)ウサギ(n=3)を用いた眼刺激性試験において、適用1時間後に結膜及び瞬膜に軽微~中等度の紅斑がみられ、24時間後まで持続した。48時間後に軽微な紅斑が1匹にみられただけで、14日までに全て正常に回復したとの報告がある(Patty (6th, 2012))。 (2)ウサギ(n=6)を用いた眼刺激性試験において、軽微な反応しか生じなかったとの報告がある(REACH登録情報 (Accessed Dec. 2021)、AICIS IMAP (2015))。 (3)ウサギを用いた眼刺激性試験において、眼刺激性はみられなかったとの報告がある(REACH登録情報 (Accessed Dec. 2021))。
呼吸器感作性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
【分類根拠】 (1)、(2)より、区分に該当しない。
【根拠データ】 (1)本物質の6%溶液を用いてボランティア 25 人で実施した感作性試験では、陽性反応はみられなかった(MOE 初期評価 (2019)、REACH登録情報 (Accessed Dec. 2021))。 (2)モルモット(n=20)を用いたMaximisation試験(皮内投与:1%溶液)において、全例で陽性反応はみられなかった(AICIS IMAP (2015)、REACH登録情報 (Accessed Dec. 2021))。
【参考データ等】 (3)モルモット(n=10)を用いた修正Draize法による皮膚感作性試験(皮内投与:1%溶液を4回適用)において、感作性反応はみられなかったとの報告がある(AICIS IMAP (2015)、REACH登録情報 (Accessed Dec. 2021))。
生殖細胞変異原性
【分類根拠】 (1)、(2)より区分に該当しない。なお、ガイダンスに基づき分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1)In vivoでは、3系統のマウスの骨髄細胞を用いた4つの小核試験(単回腹腔内投与(500~2,000 mg/kg、又は100~600 mg/kg)、3日間腹腔内投与(200~500 mg/kg)、14週間混餌投与(1,250~20,000 ppm(200~4,200 mg/kg/day))の結果はいずれも陰性であった(AICIS IMAP (2015)、EFSA (2017)、Government of Canada, Screening Assessment (2021))。 (2)In vitroでは、細菌復帰突然変異試験、マウスリンパ腫L5178Y細胞を用いた遺伝子突然変異試験で陰性であった(AICIS IMAP (2015)、EFSA (2017)、Government of Canada, Screening Assessment (2021))。
【参考データ等】 (3)本物質は利用可能な試験結果から、遺伝毒性を有さないと考えられ、本物質の発がん性の作用機序に遺伝毒性は関連しないとみられている(EFSA (2017)、CLH Report (2019)、ECHA RAC Opinion (2020))。
発がん性
【分類根拠】 (1)、(2)より、動物種2種で悪性を含む腫瘍の発生増加が認められ、動物実験において発がん性の十分な証拠があると考えられることから、区分1Bとした。なお、新たな評価に基づき分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1)ラットを用いた2年間混餌投与(312~1,250 ppm)による発がん性試験において、雄に腎尿細管腺腫(高用量群)及び単核球白血病の発生頻度(低及び中用量群)、雌に単核球白血病の発生頻度(中用量群)が認められた(IARC 101 (2013))。さらに、EFSAをはじめEUの評価では雌に組織球性肉腫の増加(稀少がん))が追加された(NTP TR533(2006)、EFSA (2017)、CLH Report (2019)、ECHA RAC Opinion (2019)、MOE初期評価 (2019)、Government of Canada, Screening Assessment (2021))。 (2)マウスを用いた2年間混餌投与(312~1,250 ppm)による発がん性試験において、雄に肝細胞腺腫単独、及び肝細胞腺腫と肝細胞がんの合計発生頻度、雌に組織球性肉腫(稀少がん)の増加が認められた(IARC 101 (2013))。さらに、EFSAをはじめEUの評価では雄に肝芽腫の増加(稀少がん)も追加された(NTP TR533(2006)、EFSA (2017)、CLH Report (2019)、ECHA RAC Opinion (2019)、MOE初期評価 (2019)、Government of Canada, Screening Assessment (2021))。 (3)(1)、(2)より、雌マウスと雌ラットにおける稀少がんの組織球性肉腫の発生頻度の増加も含め、2動物種で発がん性の証拠が得られた。ECHA RACは、低頻度の発生率であるが、組織球性肉腫は本物質のばく露に関連したもので、生物学的にも重要である。また、雄マウスには稀少がんの肝芽腫の発生もみられており、Category 2からCategory 1Bに引き上げるのが妥当であると結論した(ECHA RAC Opinion (2019))。 (4)国内外の評価機関による既存分類結果として、IARCでグループ2Bに(IARC 101 (2013))、日本産業衛生学会で第2群Bに分類されている(産衛学会許容濃度等の勧告 (2020))。
【参考データ等】 (5)雌マウスを用いた120週間経皮投与(5~50%、2回/週)による発がん性試験では、適用部位を含め、腫瘍の発生増加は認められなかった(IARC101 (2013)、EFSA (2009)、EU REACH CoRAP (2018)、CLH Report (2019)、MOE初期評価 (2019)、Government of Canada (2021))。
生殖毒性
【分類根拠】 (1)~(3)より区分に該当しない。なお、(1)より、母動物の一般毒性用量で流産/早産の発生頻度の増加がみられ、妊娠早期中断を示唆する所見がみられているが、母体毒性に起因するものと考えられる。
【参考データ等】 (1)雌ウサギを用いた強制経口投与による発生毒性試験(妊娠6~29日、5~45 mg/kg/day)において、母動物毒性(死亡(2/24)、体重増加抑制、摂餌量減少)がみられる中用量(25 mg/kg/day)以上で妊娠の早期中断(流産又は早産)の発生率増加(対照群、低・中・高用量群で各々0/24、0/24、3/22(4.5%)、7/19(36.8%))がみられた。胎児には高用量群で体重の低値がみられたのみであったとの報告がある(EFSA (2009; 2017)、AICIS IMAP (2015)、Government of Canada, Screening Assessment (2021)、NTP (2004))。 (2)ラットを用いた混餌投与による2世代生殖毒性試験(OECD TG416、100~2,000 ppm)において、F0及びF1親動物には100 ppm(6.5 mg/kg/day(雄)、8.4 mg/kg/day(雌))以上で肝臓影響(重量増加、肝細胞肥大:適応性変化)、450 ppm(29 mg/kg/day(雄)、38 mg/kg/day(雌))以上では体重増加抑制、摂餌量減少及び腎臓影響(重量増加、近位尿細管拡張、近位尿細管上皮再生)がみられたが、生殖能への影響は認められなかった。F1及びF2児動物には2,000 ppm(130 mg/kg/day(雄)、167 mg/kg/day(雌))で体重増加抑制がみられただけであったとの報告がある(EFSA (2009; 2017)、AICIS IMAP (2015)、Government of Canada, Screening Assessment (2021))。 (3)雌ラットを用いた強制経口投与による発生毒性試験(妊娠6~19日、100~300 mg/kg/day)において、母動物毒性(体重低下、症状(嗜眠、立毛)、肝臓・腎臓重量増加)がみられる低用量から骨化遅延(胸骨分節の未骨化)、中用量から骨格変異(過剰肋骨)、高用量では腹当たりの胎児体重の低値がみられたとの報告がある(EFSA (2009; 2017)、AICIS IMAP (2015)、MOE初期評価 (2019)、Government of Canada, Screening Assessment (2021))。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。なお、(1)は致死量付近でみられた影響であることから、根拠データとして採用していない。
【参考データ等】 (1)マウスを用いた単回経口投与試験において、致死量で鎮静、進行性の自発運動抑制、不安定歩行、振戦及び呼吸器障害がみられたとの報告がある。なお、LD50は2,895 mg/kgであった(REACH登録情報 (Accessed Dec. 2021))。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
【分類根拠】 (1)~(4)より、区分2(肝臓、腎臓)とした。なお、(1)より、血液系への影響がみられたが、(3)において、同種の動物を用いたより長期の試験では区分に該当する範囲でみられなかったため、標的臓器として採用していない。ガイダンスに基づき、分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1)ラットを用いた混餌投与による28日間反復経口投与試験において、100 mg/kg/day(90日換算:31.1 mg/kg/day、区分2の範囲)で体重増加抑制、血清アルブミンの高値、肝臓の絶対及び相対重量、腎臓の相対重量の高値、肝細胞肥大、尿素窒素の高値(雄)、赤血球数の減少(雌)、ヘマトクリットの低値(雌)、総ビリルビン(雌)、総タンパクの高値(雌)がみられたとの報告がある(MOE初期評価 (2019)、Government of Canada (2021))。 (2)ラットを用いた混餌投与による14週間反復経口投与試験(OECD TG408)において、75 mg/kg/day(区分2の範囲)で体重の低値(雌)、肝臓影響(重量増加、小葉中心性肝細胞肥大、細胞質空胞化、肝ミクロソームのチトクロムP450 2Bの誘導(雌))、腎臓影響(重量増加、尿細管上皮の再生)がみられたとの報告がある(AICIS IMAP (2015)、MOE初期評価 (2019)、EFSA (2009, 2017)、EU REACH CoRAP (2018))。 (3)ラットを用いた混餌投与による105週間経口投与試験において、312 ppm(15.6 mg/kg/day、区分2の範囲)で小葉中心性肝細胞肥大、尿細管過形成、甲状腺C細胞過形成、腎盂移行上皮過形成(雄)、腎症増悪(雄)、慢性活動性肝炎・胆管過形成(雌)が、625 ppm(31.3 mg/kg/day、区分2の範囲)で慢性活動性肝炎(雄)、肝臓の嚢胞変性(雄)、副甲状腺の過形成(雄)、腺胃の石灰化(雄)、体重の低値(雌)、腎症増悪(雌)がみられたとの報告がある(MOE初期評価 (2019)、AICIS IMAP(2019)、EFSA (2009; 2017)、EU REACH CoRAP (2018))。 (4)マウスを用いた混餌投与による105週間経口投与試験において、312 ppm(15.6 mg/kg/day、区分2の範囲)で小葉中心性肝細胞肥大、肝細胞の多核化(雄)、肝臓の慢性活動性炎症(雄)、腎症の増悪(雄)、脾臓リンパ濾胞の過形成(雄)、体重増抑制(雌)、腎症(雌)、腎臓の石灰化(雌)、脾臓リンパ濾胞の過形成(雌)、造血細胞の増殖(雌)が、625 ppm(31.3 mg/kg/day、区分2の範囲)で肝細胞の壊死(雄)、肝臓の嚢胞変性(雄)、腎皮質の嚢胞(雄)が、1,250 ppm(62.5 mg/kg/day、区分2の範囲)で嗅上皮における呼吸上皮化生、明細胞性変異肝細胞巣(雄)、精巣の石灰化(雄)、腎症の増悪(雌)がみられたとの報告がある(MOE初期評価 (2019)、AICIS IMAP(2019)、EFSA (2009; 2017)、EU REACH CoRAP (2018))。
誤えん有害性*
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。