急性毒性
経口
ラットLD50値: 300, 224, 713, 470, 121, 150, 519, 304, 325, 85, 117, 78, 127, 130, 110-250, 57, 560, 510 mg/kg (雌雄含む)(農薬登録申請資料(1997)、ACGIH (2005)、ATSDR (2008)、IARC 41 (1986)、EHC 146 (1993))。(GHS分類:区分3)
経皮
ウサギLD50値: 333, 504 mg/kg (農薬登録申請資料(1997)、IARC 41 (1986))、ラットLD50値: 1000, 1300-2000, 423, 1575, 1090 mg/kg (PATTY (5th, 2001)、EHC 146 (1993))。(GHS分類:区分3)
吸入
吸入(ミスト): データなし。(GHS分類:分類できない)
吸入(蒸気): ラットLC50値: 855-1035, 904, 1000, 727, 595-676, 670, 744, 1075, 1190 ppm/4h (雌雄含む)(農薬登録申請資料(1997)、IARC 41 (1986)、EHC 146 (1993))。なお、LC50値が飽和蒸気圧濃度(44737 ppm)の90%より低いので、「ミストがほとんど混在しない蒸気」として、気体の区分基準値を適用した。(GHS分類:区分3)
吸入(ガス): GHSの定義における液体である。(GHS分類:分類対象外)
皮膚腐食性・刺激性
ウサギに0.5 mLを4時間の閉塞適用した試験で、軽度~中等度の紅斑および中等度~重度の浮腫が観察され、14日後も一部の動物では症状が残った(EHC 146 (1993))。ウサギに4時間の半閉塞適用した試験で明瞭な紅斑と中等度の浮腫が認められたが、14日以内に完全に回復した(EHC 146 (1993))。ウサギに0.5 mLを4時間適用し、紅斑と軽度の浮腫を生じたが21日以内に完全に回復した(EHC 146 (1993))。なお、EU分類ではXi; R36/37/38である。(GHS分類:区分2)
眼に対する重篤な損傷・刺激性
ウサギの結膜嚢に0.1 mLを滴下した試験で、軽度~顕著な発赤、軽度~中等度の浮腫、虹彩の赤みと分泌物、1例では角膜に軽度の刺激性が見られたが、14日以内に全て回復した(EHC 146 (1993))。ウサギを用いた別の試験では、中等度~重度の結膜刺激、角膜の軽微な変化、浮腫、および虹彩の反応が見られたが、14日以内に回復した(EHC 146 (1993))。(GHS分類:区分2A)
呼吸器感作性又は皮膚感作性
皮膚感作性:モルモットを用いた皮膚感作性試験において、アジュバントを用いない場合(Buehler Test)の陽性率は2度の試験でそれぞれ25%(5/20)と90%(9/10)、アジュバントを用いる場合(Maximization test)の陽性率は2度の試験でそれぞれ100%(20/20)と80%(16/20)であり(EHC 146 (1993))、いずれも陽性の判定基準を超えている。また、ヒトでは殺虫剤製造施設の工程管理者が水疱性皮膚炎を発症、パッチテストで陽性反応を示し、恐らく当該物質95%を含む殺虫剤に感作されたものと結論されている(ACGIH (2005))。(GHS分類:区分1)
呼吸器感作性:データなし。(GHS分類:分類できない)
生殖細胞変異原性
体細胞in vivo変異原性試験としてマウスに経口投与後の骨髄細胞を用いた小核試験(IARC 71 (1999))およびマウスに腹腔内投与後の骨髄細胞を用いた染色体異常試験で陽性(NTP DB (Access on Jun. 2009))。ラットに吸入ばく露による優性致死試験(生殖細胞in vivo経世代変異原性試験)で陰性(ACGIH (2005))、マウスに経口または腹腔内投与による骨髄を用いた別の小核試験で陰性(IARC 71 (1999))、ラットに経口または腹腔内投与による肝臓、腎臓などを用いたDNA損傷試験で陽性(IARC 71 (1999))。in vitroの試験では、エームス試験で陽性、染色体異常試験で陰性または陽性(NTP DB (Access on Jun. 2009)、安衛法変異原データ集(1996))、マウスリンパ腫試験で陽性(NTP DB (Access on Jun. 2009))。また遺伝毒性試験の陽性知見からEFSA(およびEU)ではMuta. Cat.3; R68が提案されたが、議論の結果、不純物や安定化剤の影響の可能性により承認されなかった(食品安全委員会 食品安全関係情報(2009))。(GHS分類:区分2)
発がん性
主要機関の発がん性評価として、IARCではグループ2B(IARC 71 (1999))、ACGIHではA3(ACGIH (2005))、EPAではB2(IRIS (2003))に分類されている。なお、ラットまたはマウスに2年間経口投与した試験において前胃扁平上皮の乳頭腫または癌腫の発生率の増加が見られ、さらに、ラットで肝臓腫瘍の発生率の増加、マウスで肺胞/細気管支の腫瘍および膀胱の移行上皮細胞癌の発生率が増加(NTP TR 269 (1985)、IRIS (2003))。(GHS分類:区分2)
生殖毒性
ラットの2世代に亘り吸入ばく露した試験で、親動物の毒性として体重減少と鼻粘膜の病理組織学的変化が現れたが、生殖および新生仔の成長または生存に対する悪影響は観察されなかった(EHC 146 (1993))。また、妊娠ラットおよび妊娠ウサギの器官形成期に吸入ばく露した試験において、両動物種とも母動物の一般毒性として体重増加抑制が観察されたが、着床、吸収、同腹仔数などの生殖指標への悪影響はなく、催奇形性および胎児毒性の証拠は見出されなかった(EHC 146 (1993))。(GHS分類:区分外)
特定標的臓器・全身毒性(単回ばく露)
ヒトでの情報として、低濃度の吸入ばく露は中枢神経系の抑制を起こし(EHC 146 (1993))、事故による高用量の中毒は急性神経症状を引き起こす(ACGIH (2005))。ラットを用いた急性経口毒性試験(LD50: 110~250 mg/kg)で、し眠、円背位、運動失調、振戦の症状があり(IUCLID (2000))、経皮投与(LD50: 800~2000 mg/kg)でも、し眠、円背位、運動失調に加え、正向反射の消失を示した(EHC 146 (1993)、IUCLID (2000))。これらのラットの急性毒性試験では神経系症状のほか、経口、経皮および吸入の3経路において呼吸数減少が認められ、生存例の剖検所見として経口および経皮投与で肺のうっ血、吸入投与で肺の蒼白と腫脹(EHC 146 (1993)、IUCLID (2000))。(GHS分類:区分1(神経系、肺))
特定標的臓器・全身毒性(反復ばく露)
ラットに13週間反復経口投与した試験において、15 mg/kg/day以上で前胃の基底膜近位で基底細胞の過形成と単核細胞の隆起が認められ(ACGIH (2005))、2年間投与で25または50 mg/kg/dayで、非腫瘍性病変として前胃の基底細胞または上皮の過形成が認められた(NTP TR 269 (1985))。ヒトの情報として健康状態良好な1人の農夫が30日間にわたり本物質の土壌処理の間、ホースから漏れた少量のばく露により、耳、鼻粘膜、咽頭に疼痛が現れ、入院検査により外耳の痛み、充血、鼻粘膜の表在性潰瘍および咽頭の炎症が明らかとなった(EHC 146 (1993))。ラットおよびマウスに13週間吸入(蒸気)ばく露した試験において、両動物種とも409 mg/m3以上で嗅上皮の変性と気道上皮の過形成が観察された(EHC 146 (1993))。また、マウスの13週間吸入試験では同用量で膀胱の移行上皮の過形成も認められ、この膀胱の所見は2年間吸入ばく露試験においても報告され(IARC 71 (1999))、吸入による主要標的組織は鼻粘膜と膀胱であるとの記載(EHC 146 (1993))がある。なお、2年間の経口投与後に前胃では扁平上皮の乳頭腫または癌腫、膀胱では移行上皮細胞癌の発生率が増加(NTP TR 269 (1985))。(GHS分類:区分2(胃、上気道、膀胱))
吸引性呼吸器有害性
データなし。(GHS分類:分類できない)