急性毒性
経口
ラットを用いた経口投与試験のLD50値4,600 mg/kg(EHC 98(1990))は国連GHS急性毒性区分5に該当するが、国内では不採用区分につき、区分に該当しないとした。
経皮
ラットを用いた経皮投与試験のLD50値>5,000 mg/kg(EHC 98(1990))から区分に該当しないとした。
吸入: ガス
GHS定義上の固体であるため、ガスでの吸入は想定されず、分類対象外とした。
吸入: 蒸気
データがないので分類できない。
吸入: 粉じん及びミスト
本物質の飽和蒸気圧濃度(30℃)は1.26×10-5 mg/Lの固体である。ラットを用いた3時間吸入暴露試験のLC50値>2.74 mg/L(HSDB(2001))より粉塵基準を適用する。4時間換算LC50値は>2.06 mg/Lより、区分を特定できないので分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
ウサギを用いた皮膚刺激性試験2件の判定について、いずれも「刺激性なし」(EHC 98(1990))である旨の記述がなされているが、暴露時間が不明であるため分類できない。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
ウサギを用いた眼刺激性試験2件の判定について、それぞれ、「slight」、「一過性の症状であり、48時間後に回復した」(EHC 98(1990))旨の記述がなされている。以上より区分2Bとした。
呼吸器感作性
データがないので分類できない。
皮膚感作性
ヒトについては、200名の健常人への1%溶液を用いた半密閉パッチテストで「感作性はない」(EHC 98(1990))旨、記述されている。動物については、「ラセミ混合物および1R,cis/trans異性体は、モルモットにおける感作物質とは認められなかった」(EHC 98(J)(1990))との記述があるが、用量等の詳細が記述されていない。以上より、データ不足のため分類できない。
生殖細胞変異原性
体細胞in vivo変異原性試験(マウス骨髄細胞を用いる染色体異常試験)は「陰性」(EHC 98(1990))との記述から、区分に該当しないとした。
発がん性
【分類根拠】 (1)マウスでは腫瘍の発生増加がみられないこと、(2)ラットでは良性腫瘍の増加のみであり限定的な発がん性の証拠であると考えられることから、区分1Bに分類するには不十分と判断し、区分2とした。なお、(2)の結果が(3)で示されるような(6)の作用機序である場合、ヒトへの外挿性はないと考えられるが、(6)の作用機序によることを示すバックデータが不足していることから、(2)のヒトへの外挿性は否定できない。新たな知見に基づき、分類結果を変更した。旧分類からECHA CLPの分類が追加されたため、発がん性項目のみ見直した(2021年)。
【根拠データ】 (1)マウスを用いた2年間混餌投与(12~1,500 ppm:2.4~430 mg/kg/day)による発がん性試験では、腫瘍の発生増加は認められなかった(CLH Report (2015)、ECHA RAC Opinion (2016)、EPA Pesticides (2010))。 (2)母体の子宮内で胎生期から投与され、離乳後に投与開始されたラット(SD系)を用いた2年間混餌投与(1,000~5,000 ppm:42~300 mg/kg/day)による発がん性試験では、3,000 ppm(125 mg/kg/day)以上で雄に精巣間細胞の腺腫の発生率増加がみられた。同様に、2系統(SD、Long Evans)の雄ラットに胎生期から子宮内で、離乳後2年間混餌投与した発がん性試験においても高用量(5,000 ppm)群でいずれの系統の動物も精巣間細胞腺腫の発生率増加がみられた。精巣腫瘍の再現性が確認された(CLH Report (2015)、ECHA RAC Opinion (2016)、EPA Pesticides (2010))。 (3)ラットの精巣間細胞(ライディッヒ)腫瘍の発生機序は(6)のとおり、多く提唱されているが、既存知見からは本物質には変異原性はないと判断されている。その他の機序については、いずれも否定はできないが、ヒトへの外挿可能性は低いと考えられている。結論として、ラットの独立した2つの試験で精巣の良性腫瘍が認められたが、作用機序及びヒトへの外挿性は不明なままであり、発がん性分類はCarc. 2とされた(ECHA RAC Opinion (2016))。 (4)国内外の評価機関による既存分類結果として、EPAではグループC(Possible Human Carcinogen)(EPA Annual Cancer Report 2020 (Accessed Oct. 2021):1989年分類)又はS(Suggestive Evidence of Carcinogenic Potential:2005年分類基準)(EPA Pesticides (2010))、EUではCarc. 2に分類している(CLP分類結果 (Accessed Oct. 2021))。
【参考データ等】 (5)SD系ラットを用いた発がん性試験の結果、中及び高用量群の雄で精巣間細胞の腺腫の用量依存的な発生率の増加がみられた。精巣間細胞の腫瘍はSD系ラット及びLong Evans系ラットの雄でも結果の再現性が確認された。SD系ラットのヒストリカルコントロールの範囲内を超えていた。B6C3F1マウスを用いた発がん性試験では腫瘍の発生増加はみられなかった。ラットの精巣腫瘍は良性腫瘍で、試験の後期に生じ、胎生期からばく露を開始しても腫瘍の発生が早まることはなかった。したがって、精巣腫瘍は悪性腫瘍に進行しないと判断された(EPA Pesticides (2010))。 (6)ラットのライデッヒ細胞腫瘍については視床下部-下垂体-精巣軸の障害のベースには少なくとも9つの異なる作用機序が知られている。これらの機序には、1)GnRH(性腺刺激ホルモン)アゴニスト作用、2)ドーパミン系アゴニスト/亢進、3)変異原性、4)アンドロゲン受容体アンタゴニスト(拮抗作用)、5)5α-還元酵素阻害作用、6)エストロゲン受容体アゴニスト/アンタゴニスト、7)アロマターゼ阻害作用、8)テストステロン生合成能の低下、9)テストステロン代謝の亢進である。これらのうち、ヒトへの外挿妥当性が確かであるのは、3)変異原性のみである。1)、2)はヒトへの外挿妥当性はないと考えられており、他の機序についてはその可能性が低いと考えられれている(ECHA RAC Opinion (2016))。
生殖毒性
ラットを用いた生殖毒性試験において、「親動物に肝臓重量の増加、腎臓重量の増加、体重増加抑制、摂餌量の減少がみられた用量で、児動物に影響はみられなかった。しかし、最高用量の1,000 mg/kgでは、妊娠率の変化はないが性周期への影響と排卵抑制作用が見られた」(EHC 98(1990))旨の記述がある。この一次文献は非公開データで詳細が不明であるため、分類できない。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
EHC 98(1990)に、「毒性徴候には、過剰興奮、振戦(ふるえ)、運動失調、機能低下が含まれる」旨の記述がある。引用文献のうちの1つ(Degradation, metabolism and toxicity of synthetic pyrethroids.(1976))を確認したところ、ラットおよびマウスを用いた単回吸入暴露試験で、「易刺激性、運動失調、尿失禁がみられた」旨の記述がある。この影響は区分2のガイダンス値の範囲内でみられた。以上より区分2(中枢神経系)とした。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
EHC 98(1990)に、マウスを用いた104週間混餌投与試験において、「雄に脳下垂体および甲状腺/副甲状腺の重量減少、脾臓重量の減少」がみられた旨、記述されている。また、ラットを用いた6ヶ月間混餌投与試験において、区分2のガイダンス値の範囲内で「雄で血清カルシウム値の上昇、肝臓脂質含量の減少、雌雄で尿タンパク量の僅かな増加、腎の相対重量および肝臓重量の増加、血清コレステロール値の上昇」(EHC 98(1990))がみられた旨、記述されている。肝臓の症状については「飼料へのコーン油添加に関連した適応性変化である」(EHC 98(1990))ことが指摘されている。また、その他の臓器については重量減少以外の影響が見られておらず、重大な症状にはあたらないと考えられる。以上から、いずれも標的臓器としては採用しないが、本物質の暴露によりヒトで健康影響を生じる可能性を完全には否定できないので、分類できない。
誤えん有害性*
データがないので分類できない。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。