急性毒性
経口
ラットのLD50値として、336 mg/kg (環境省リスク評価第5巻 (2006))、620 mg/kg (SIDS (2006))、656 mg/kg (SIDS (2006)、ACGIH (7th, 2001)、DFGOT vol. 3 (1992))、760 mg/kg (DFGOT vol. 3 (1992))、656-760 mg/kg (NITE初期リスク評価書 (2007)) との報告に基づき、区分4とした。
経皮
ウサギのLD50値として、890 mg/kg (NITE初期リスク評価書 (2007)、SIDS (2006)、環境省リスク評価第5巻 (2006)、DFGOT vol. 3 (1992)) との報告に基づき、区分3とした。
吸入:ガス
GHSの定義における固体である。
吸入:蒸気
データ不足のため分類できない。なお、ラットのLC50値 (1時間) として、> 0.64 mg/L (4時間換算値:> 0.32 mg/L) との報告 (SIDS (2006)、環境省リスク評価第5巻 (2006)、ACGIH (7th, 2001)、DFGOT vol. 3 (1992)) があるが、この値のみでは区分を特定できない。なお、LC50値が飽和蒸気圧濃度 (376 ppm) の90%より低いため、ミストを含まないものとしてppmを単位とする基準値を適用した。
吸入:粉じん及びミスト
データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
本物質をウサギに4時間適用した試験において、一次刺激スコアは0.15であり、刺激性なしとの報告がある (SIDS (2006))。また、本物質を24時間閉塞適用した結果刺激性はみられなかったとの報告がある (SIDS (2006))。以上より、区分外とした。なお、本物質を24時間適用した別の試験においては、中等度から重度の刺激性がみられたとの報告があるが (NITE初期リスク評価書 (2007))、24時間適用の結果であるため分類には用いなかった。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
ウサギを用いた眼刺激性試験において、適用24、48及び72時間後の平均スコアはそれぞれ56.2/110、52.0/110、43.3/110であった (SIDS (2006))。また、本物質20 mgをウサギの眼に適用した結果、中等度の刺激性がみられ、100 mgを適用した結果重度の刺激性がみられたとの報告がある (NITE初期リスク評価書 (2007))。一方、本物質をウサギに適用した別の試験において刺激性なしとの報告がある (SIDS (2006))。以上、刺激性スコア及び中等度、重度の刺激性ありとの記載から区分2Aとした。なお、本物質はEU DSD分類で「Xi; R36」、EU CLP分類で「Eye Irrit. 2 H319」に分類されている。
呼吸器感作性
データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
モルモットを用いた感作性試験 (ビューラー法) において、感作反応がみられたとの報告がある (NITE初期リスク評価書 (2007)、SIDS (2006)、DFGOT vol. 3 (1992))。以上より、区分1とした。なお、本物質はEU DSD分類において「R43」、EU CLP分類において区分「Skin Sens. 1」に分類されている。
生殖細胞変異原性
In vivoでは、マウスの腎臓、肝臓を用いたDNA損傷試験で陽性の結果がある (NITE初期リスク評価書 (2007)、環境省リスク評価第5巻 (2006)、SIDS (2006)、ACGIH (7th, 2001)、DFGOT vol. 3 (1992))。In vitroでは、細菌の復帰突然変異試験で陰性、哺乳類培養細胞の染色体異常試験で陽性、DNA損傷試験で陰性である (NITE初期リスク評価書 (2007)、環境省リスク評価第5巻 (2006)、ACGIH (7th, 2001)、DFGOT vol. 3 (1992)、SIDS (2006))。In vivoでのDNA損傷試験陽性結果については、1用量のみの結果であり、SIDS (2006) はこれが正しいか否か不明であると評価していることから、データ不足のため分類できないとした。
発がん性
ACGIHでA3 (ACGIH (2001))、EUで3 (EU (Access on Dec. 2014)) であることから、区分2とした。
生殖毒性
データ不足のため分類できない。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
本物質は気道刺激性がある (ACGIH (7th, 2001))。ヒトにおいては、吸入、経口、経皮ばく露中毒で、頭痛、疲労、めまい、悪心、息苦しさ、吐き気、錯乱、眩暈、意識喪失、メトヘモグロビン血症、血尿、排尿困難、貧血、唇や爪、皮膚のチアノーゼが報告されている。また、高濃度のばく露で、腎臓や膀胱の障害原因となるとの記載がある (NITE初期リスク評価書 (2007)、環境省リスク評価第5巻 (2006)、SIDS (2006)、ACGIH (7th, 2001)、PATTY (6th, 2012)、DFGOT vol. 3 (1992))。 実験動物では、ラットの100-900 mg/kgの経口投与で自発運動低下、尿排泄増加、衰弱、チアノーゼ、食欲不振、麻酔作用、ラットの0.64 mg/L以上の吸入ばく露で活動低下、筋力低下、痙攣、メトヘモグロビン血症、チアノーゼ、昏睡がみられている (NITE初期リスク評価書 (2007)、SIDS (2006)、ACGIH (7th, 2001))。 以上より、本物質は気道刺激性のほか、中枢神経系、血液系、腎臓、膀胱に影響を与えることから、区分1 (中枢神経系、血液系、腎臓、膀胱)、区分3 (気道刺激性) とした。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
本物質ばく露による中毒症状はメトへモグロビン血症と血尿であると報告されている (ACGIH (7th, 2001)、PATTY (6th, 2012))。また、本物質と o-トルイジンの生産工場で両物質への反復吸入ばく露を受けた作業者81名のうち、膀胱鏡検査を受けた75名中2名に膀胱の乳頭腫がみられ、うち1名は本物質のみに1年8ヶ月間、他の1名は両物質に23年間ばく露された被験者であった。また、作業者81名中20名にメトヘモグロビン血症がみられたと報告されている (DFGOT vol. 3 (1992))。 実験動物でのラットに低タンパク食餌中に本物質を混ぜ、6ヶ月間混餌投与した試験で、40 mg/kg/day以上で用量依存的なメトヘモグロビン血症がみられた (SIDS (2006)) との報告がある。一方、ラットに28日間混餌投与した試験では、66.8 mg/kg/day (90日換算: 20.8 mg/kg/day相当) 以上で、肝臓相対重量の増加がみられているが、病組織検査を実施しておらず、組織学的異常の有無が不明で、分類に利用できる結果ではない (SIDS (2006)、ACGIH (7th, 2001))。この他、分類に利用可能なデータはない。 以上、ヒト及び実験動物でメトヘモグロビン血症がみられたこと、血尿と膀胱への作用との因果関係は明らかではないが、長期ばく露により膀胱組織に変化を生じる可能性が示唆されていることから、区分1 (血液系、膀胱) に分類した。なお、本物質の異性体であるo-トルイジン (CAS No.: 95-53-4) についても、同様に区分1 (血液系、膀胱) に分類している。
吸引性呼吸器有害性
データ不足のため分類できない。