急性毒性
経口
マウスのLD50値として、5,000 mg/kgとの報告 (IUCLID (2000)) に基づき、区分外とした。
経皮
ウサギのLD50値として、3,000 mg/kgとの報告 (IUCLID (200)) に基づき、区分外 (国連分類基準の区分5) とした。
吸入:ガス
GHSの定義における液体である。
吸入:蒸気
ラットのLC50値 (4時間) として、> 17,940 ppm (SIDS (2013)、25,132 ppm (環境省リスク評価第6巻:暫定的有害性評価シート (2008)) との報告に基づき、区分外とした。なお、LC50値が飽和蒸気圧濃度 (45,410 ppm) の90%より低いため、ミストを含まないものとしてppmを単位とする基準値を適用した。
吸入:粉じん及びミスト
データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
ヒトにおいて1時間接触により刺激性と皮膚炎が認められたとの報告 (DFGOT vol. 11 (1998)) や、皮膚へ直接ばく露すると疼痛、火傷、掻痒を生じるとの記述 (産衛学会許容濃度の提案理由書 (1988)) があることから、区分2とした。なお、本物質はEU DSD分類で「Xi; R38」、EU CLP分類で「Skin Irrit. 2 H315」に分類されている。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
本物質はヒトの眼に対して刺激性を持つとの記載がある (環境省リスク評価第6巻:暫定的有害性評価シート (2008)、産衛学会許容濃度の提案理由書 (1988))。なお、ウサギを用いた眼刺激性試験において軽度の刺激性がみられた (IUCLID (2000)) との報告がある。以上、「刺激性あり」との記載から、区分2とした。
呼吸器感作性
データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
データ不足のため分類できない。
生殖細胞変異原性
データ不足のため分類できない。すなわち、in vivoデータはなく、in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験、ラット肝培養細胞の染色体異常試験で陰性である (PATTY (6th, 2012)、IUCLID (2000)、HSDB (Access on August 2014))。
発がん性
EPA IRIS (1993) でDに分類されていることから、「分類できない」とした。
生殖毒性
データ不足のため分類できない。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
本物質は気道刺激性及び麻酔作用を有する (環境省リスク評価第6巻:暫定的有害性評価シート (2008)、SIDS (2013)、ACGIH (7th, 2001)、DFGOT vol. 11 (1998)、HSDB (Access on August 2014)、産衛学会許容濃度の提案理由書 (1988)、DFGOT vol. 11 (1998))。ヒトにおいては、吸入ばく露でめまい、感覚鈍麻、頭痛、興奮、協調運動失調、昏迷等中枢神経系に影響を与えることがある。この中枢神経系への影響は麻酔作用による。経口摂取では吐き気、嘔吐、胃痙攣、灼熱感を生じる (環境省リスク評価第6巻:暫定的有害性評価シート (2008)、SIDS (2013)、ACGIH (7th, 2001)、DFGOT vol. 11 (1998)、HSDB (Access on August 2014)、産衛学会許容濃度の提案理由書 (1988)、DFGOT vol. 11 (1998))。 実験動物では、マウスの吸入ばく露で上気道刺激が鼻腔粘膜の三叉神経終末受容体の興奮を引き起こし呼吸数低下を生じたとの報告がある (DFGOT vol. 11 (1998))。 以上より、区分3 (気道刺激性、麻酔作用) とした。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
タイヤ工場で純度95%以上の本物質の蒸気に1-9年間ばく露された18名の作業者が四肢のしびれと知覚異常を訴えた。神経学的検査では末梢神経症の証拠は示されなかったが、ばく露群の12名中10名で運動神経伝達速度 (MCV) の低下とばく露期間との間に有意な相関がみられ、臨床的には多発性神経症の疑いありとされた (SIDS (2013)、DFGOT vol. 11 (1998)) との記述、製靴工場で本物質を含む高濃度の膠溶剤にばく露された女性の作業者が3ヵ月後に中枢神経症状及び末梢神経障害を発症し、ばく露中止後に中枢神経症状は速やかに消失したが、軽度の末梢神経症が数ヶ月間持続した (SIDS (2013)、DFGOT vol. 11 (1998)) との記述があり、神経症の発症には神経毒性物質とされている代謝物の 2,5-ヘプタンジオンの濃度が関与しているとの見解が示されている (SIDS (2013))。一方、本物質 (5-196 mg/m3) にばく露された製靴工場及びタイヤ工場の作業者8名には、神経症の兆候はみられず、尿中 2,5-ヘプタンジオンは一部の例で低濃度 (0.25 mg/L) で検出されたことから、神経症発症には高濃度、かつ持続的なn-ヘプタンへのばく露が必要であると考えられており (SIDS (2013)、DFGOT vol. 11 (1998))、SIDSはC7-C9の脂肪族炭化水素化合物のカテゴリー評価結果として、これらの物質群は総じて神経毒性を示さないと判断している (SIDS (2013))。 実験動物では、ラットに本物質 (蒸気と推定) を26週間吸入ばく露した試験において、区分外の高濃度まで明確な毒性影響はみられず、NOAELは2,970 ppm (12.2 mg/L) であると報告されている (SIDS (2013))。また、ラットに3,000 ppmで16週間、又は1,500 ppmで最長30週間、吸入ばく露したが、神経毒性の兆候はみられていない (SIDS (2013))。 以上、職業ばく露による複数の疫学知見より持続的な本物質へのばく露により、ヒトで神経障害が生じる可能性は否定できないと考え、区分1 (神経系) とした。
吸引性呼吸器有害性
炭化水素であり、吸引により化学性肺炎を生じるとの記述 (HSDB (Access on August 2014)) より、区分1とした。