急性毒性
経口
【分類根拠】 (1)~(5) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) ラットのLD50: 3.84~7.01 mL/kg (4,262~7,781 mg/kg) (NTP DMM3 (2005)) (2) ラットのLD50: 5,000 mg/kg (NTP DMM3 (2005)) (3) ラットのLD50: 5,170 mg/kg (GESTIS (Access on May 2020)) (4) ラットのLD50: 5,190 mg/kg (HSDB (Access on May 2020)) (5) ラットのLD50: > 5,000 mg/kg (AICIS IMAP (2017))
経皮
【分類根拠】 (1)~(3) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) ウサギのLD50: 3.89~10.04 mL/kg (4,318~11,144 mg/kg) (NTP DMM3 (2005)) (2) ウサギのLD50: 5,170 mg/kg (NTP DMM3 (2005)、GESTIS (Access on May 2020)、HSDB (Access on April 2020)) (3) ウサギのLD50: > 4.7 mL/kg (> 5,170 mg/kg) (AICIS IMAP (2017))
吸入: ガス
【分類根拠】 GHSの定義における液体であり、区分に該当しないとした。
吸入: 蒸気
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
吸入: 粉じん及びミスト
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。(1) のデータがあるが、このデータのみでは区分を特定できないため分類できないとした。なお、ばく露濃度が飽和蒸気圧濃度 (0.776 ppm) よりも高いため、ミストと判断した。
【参考データ等】 (1) ラットのLC50 (6時間): > 0.55 mg/L (45.4 ppm) (4時間換算値: > 0.825 mg/L) (AICIS IMAP (2017)、REACH登録情報 (Access on June 2020)) (2) 本物質の蒸気圧: 5.9E-004 mmHg (25℃) (HSDB (Access on April 2020)) (飽和蒸気圧濃度換算値: 0.776 ppm)
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分に該当しない (国連GHS区分3相当) とした。新しいデータ (1)、(2) が得られたことから分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1) OECD TG 404に準拠したウサギを用いた皮膚刺激性試験で軽度から明らかな紅斑と浮腫が適用24時間後に観察され、適用24及び72時間後の紅斑及び浮腫の平均スコアは2.25及び1.5であった (AICIS IMAP (2017)、NTP TR576 (2012)、HSDB (Access on April 2020))。 (2) OECD TG 404に準拠したウサギ (3匹) を用いた皮膚刺激性試験で軽度から明らかな紅斑と浮腫が観察されたが、24時間後から72時間後の各個体の平均スコアは2.3未満であった (REACH登録情報 (Access on June 2020))。
【参考データ等】 (3) ウサギを用いた24時間閉塞適用による皮膚刺激性試験で軽度から明らかな紅斑と浮腫が観察され、適用24及び72時間後の紅斑及び浮腫の平均スコアは1及び0.33であった (REACH登録情報 (Access on June 2020))。 (4) EU-CLP分類でSkin Irrit. 2 (H315)に分類されている (EU CLP分類 (Access on June 2020))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分2Aとした。
【根拠データ】 (1) OECD TG 405に準拠し、ウサギ (3匹) を用いた眼刺激性試験において、刺激物と判定され、適用24時間後には軽度の角膜損傷と虹彩炎、中等度から重度の結膜傷害がみられ、角膜の損傷性は適用後に増強した (AICIS IMAP (2017)、EU REACH CoRAP (2019))。 (2) ウサギ (2匹) を用いた眼刺激性試験 (ドレイズ法相当) で2例共に結膜発赤の24~72時間後の平均スコアが2を超えていた (REACH登録情報 (Access on June 2020))。
【参考データ等】 (3) OECD TG 437に準拠し、ウシ角膜を用いたin vitro眼損傷性試験 (BCOP) において、平均刺激性スコア(IVIS)は0.9であり、区分外に相当する (EU REACH CoRAP (2019))。 (4) EU-CLP分類でEye Irrit. 2 (H319) に分類されている (EU CLP分類 (Access on June 2020))。
呼吸器感作性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分1とした。
【根拠データ】 (1) OECD TG 406に準拠したモルモットを用いた皮膚感作性試験 (マキシマイゼーション法、皮内投与 1%) で陽性率は0.1%液では 25%、0.5%液では66%であった (AICIS IMAP (2017))。 (2) モルモットを用いた皮膚感作性試験 (マキシマイゼーション法) での陽性率は 0.5%液では 20%、10%液では50% であった (EU REACH CoRAP (2019)、MAK (DFG) vol.16 (2001)、AICIS IMAP (2017)。
【参考データ等】 (3) マウス局所リンパ節試験 (LLNA、適用濃度 0.05%、0.1%、0.25%) 及びMouse ear swelling test (MEST)で陰性であった (AICIS IMAP (2017)、NTP DMM3 (2005)、EU REACH CoRAP (2019))。
生殖細胞変異原性
【分類根拠】 (1)、(2) より、専門家判断に基づき区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) in vivoでは、ラット単回経口投与による骨髄の染色体異常試験で陰性、トランスジェニックマウス(TG·AC) に6ヵ月間経皮投与による小核試験で陰性の報告がある (IARC 122 (2019))。マウスに3ヵ月間経皮投与による末梢血小核試験で陰性の報告があるがテストガイドラインに準拠しておらず陽性対照の結果が示されていないとの報告がある (IARC 122 (2019)、EU REACH CoRAP (2019))、マウスの静脈内投与によるコメットアッセイ (OECD TG 489) で肝臓で陰性、骨髄で陽性の報告があるが、試験方法の一部に問題があるとの報告がある (EU REACH CoRAP (2019))。 (2) in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験で陰性、哺乳類培養細胞を用いる染色体異常試験で陽性、小核試験で陽性、不定期DNA合成試験で陰性、HPRT遺伝子突然変異試験で陰性、マウスリンフォーマ試験で陽性、陰性の結果の報告がある (IARC 122 (2019)、EU REACH CoRAP (2019))。
【参考データ等】 (3) IARCは本物質の遺伝毒性については弱い証拠があるとしている (IARC 122 (2019))。
発がん性
【分類根拠】 (1)~(3) より区分2とした。
【根拠データ】 (1) 国内外の分類機関による既存分類では、IARCで工業用 (Technical-grade) としてグループ2B (IARC 122 (2019))、産衛学会で本物質の工業用として第2群B (産業衛生学会誌許容濃度の勧告 (2019年提案)) に分類されている。 (2) 雌雄のラット及びマウスに本物質を2年間経皮適用した発がん性試験では、雄ラットで悪性中皮腫、雌マウスでまれな悪性肝腫瘍 (肝芽腫および肝胆管がん) と子宮の間質ポリープ及び間質肉腫の合計の発生率の有意な増加が認められた。これより、雄ラットには本物質の発がん性に関して曖昧な証拠 (equivocal evidence) が、雌マウスには本物質の発がん性に関してある程度の証拠 (some evidence) があると結論された (NTP TR576 (2012))。 (3) 雌雄のトランスジェニックマウス (Tg.AC Hemizygous) に本物質を28週間経皮適用した試験では、雌雄で適用部位の皮膚に扁平上皮乳頭腫、雌で前胃の扁平上皮乳頭腫の発生率の有意な増加がみられた (NTP DMM3 (2005)、IARC 122 (2019))。
生殖毒性
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分1Bとした。
【根拠データ】 (1) 雌ウサギの妊娠6~28日に強制経口投与した発生毒性試験において、母動物毒性がみられない用量において、胎児毒性 (臓器奇形 (小眼球、白内障、肝浮腫、腹水)、骨格変異 (過剰骨化部位を伴う胸骨)の発生率の増加が認められた (EU REACH CoRAP (2019))。 (2) 上記 (1) で認められた胎児毒性を確認するために雌ウサギの妊娠6~28日に1用量を強制経口投与した発生毒性試験において、同様の内臓奇形、骨格変異は認められなかったが、母動物毒性がみられない用量で同腹児数の減少、胎児重量の低値が認められた (EU REACH CoRAP (2019))。EU REACH CoRAP (2019) では、(1) で認められた胎児毒性が (2) において一貫して認められなかったとしても、(2) では1用量のみが試験されたため、それらの関連性を完全に除外することはできず、(1) でみられた胎児毒性を有害影響と判断している。
【参考データ等】 (3) ラットを用いた経口経路での反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験 (OECD TG 422) において、親動物毒性 (前胃の局所影響) がみられる用量においても生殖影響は認められていない (EU REACH CoRAP (2019))。 (4) 雌ラットの妊娠6~15日に強制経口投与した発生毒性試験において、母動物毒性 (死亡: 4/22例、胃の病変) がみられる用量においても胎児に影響はみられていない (EU REACH CoRAP (2019))。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
【分類根拠】 本物質のヒトでの単回ばく露に関する報告はない。(1) より、区分3 (麻酔作用) とした。
【根拠データ】 (1) マウスの経皮ばく露試験で、本物質50 mg (ガイダンス換算値: 2,500 mg/kg、区分2超の範囲) をばく露した直後に嗜眠、不活発、流涎がみられたとの報告がある (NTP TR576 (2012))。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
【参考データ等】 (1) 本物質のラット経口投与試験において胃への影響がみられた (EU REACH CoRAP (2019)、AICIS IMAP (2017)) が、これらの所見は刺激性に起因すると考えられた。
誤えん有害性*
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。なお、(1)より、20℃で動粘性率は109 mm2/secと算出されるが、その他の情報は得られなかった。
【参考データ】 (1)動粘性率が20℃で109 mm2/s(20℃での粘性率122 mPa・s(EU REACH CoRAP (2019)) と密度1.11 g/cm3 (HSDB (Access on April 2020)) から算出)である。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。本有害性項目の内容に変更はない。