急性毒性
経口
GHS分類: 分類できない
データ不足のため分類できない。
経皮
GHS分類: 分類できない
データ不足のため分類できない。
吸入:ガス
GHS分類: 分類対象外
GHSの定義における液体である。
吸入:蒸気
GHS分類: 分類できない
データ不足のため分類できない。
吸入:粉じん及びミスト
GHS分類: 分類できない
データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
GHS分類: 分類できない
データ不足のため分類できない。なお、アルキル水銀化合物は強い皮膚刺激性をもつとの記載がある (HSDB (Access on August 2015))
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
GHS分類: 分類できない
データ不足のため分類できない。
呼吸器感作性
GHS分類: 分類できない
データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
GHS分類: 分類できない
データ不足のため分類できない。
生殖細胞変異原性
GHS分類: 分類できない
データ不足のため分類できない。In vivoでは、静脈内投与によるマウス卵母細胞の染色体異常試験で陰性 (IARC 58 (1993)) である。In vitroでは、ヒトリンパ球培養細胞の染色体異常試験で陽性 (IARC 58 (1993))、チャイニーズハムスター培養細胞の染色体異常試験で陰性である (ATSDR (1999))。旧分類に記載のチャイニーズハムスター細胞を用いる染色体異常試験での陽性結果は1用量のみの結果であるとの記載がある(ATSDR (1999))。
発がん性
GHS分類: 区分2
ヒトでの発がん性に関する情報はない。実験動物ではラット、又はマウスにメチル水銀塩化物を経口混餌投与した発がん性試験において、ラットでは腫瘍発生の増加はみられなかったが、マウスでは3件の試験結果全てで、腎尿細管の腺腫、又は腺がんの発生頻度の増加が雄に認められた (IARC 58 (1993)) との記述がある。すなわち、メチル水銀塩化物をマウスに混餌投与した異なる試験において、雄マウスに腎臓腫瘍の数の有意な増加がみられたとの記述、及び性腺切除後にプロピオン酸テストステロン処置した雌雄マウスに腎臓腫瘍 (数箇所) がみられた (性腺切除後テストステロン投与を行わない雌雄マウスでは腎臓腫瘍の増加は生じなかった) (IARC 58 (1993)) との記述がある。これらの結果に基づき、IARCはグループ2Bに分類した (IARC 58 (1993))。これ以降、いずれの国際機関による発がん性分類結果もなく、ヒトでの発がん性の証拠を補強する知見も得られていない。よって、本項は区分2とした。
生殖毒性
GHS分類: 区分1A
追加区分: 授乳に対する、又は授乳を介した影響
本物質 (ジメチル水銀) に限定した生殖毒性影響のデータはない。しかしながら、Handbook on the Toxicology of Metals (4th, ed., 2015) 中に、本物質は吸入、又は経皮経路により効率的に吸収され、生体内では「メチル水銀 (MeHg)」 に変換され、数症例の致死的ばく露症例における中毒症状の記述から、ジメチル水銀中毒は症候学的、毒物動態学的にメチル水銀化合物ばく露後に生じる現象と同等であるとの記述、及び本物質単回ばく露5ヶ月後に遅延性に神経症状が発現した症例から推測して、吸収されたジメチル水銀は脂肪組織に分布蓄積し、徐々に脱メチル体が遊離する可能性があるとの記述もある (Handbook on th Toxicology of Metals. 4th. ed., Volume II. pp. 1061 (2015))。したがって、本項の分類には「メチル水銀」による生殖毒性情報の利用が可能であると判断し、以下、メチル水銀の生殖発生毒性影響に関して、JECFA FAS (2007)、ATSDR (2013)、ACGIH (7th, 2001) からの記述内容、並びに本邦における水俣病問題に対する国の公式見解中の「胎児性水俣病」に関する記述を引用し、分類することとする。
WHOとFAOの合同専門家会議でメチル水銀のヒト健康影響が評価された結果、ファロー諸島での本物質にばく露された妊婦や子供の調査研究、並びに日本、イラクで出生前から、又は生後にばく露された子供を対象とした調査研究から、成長後に生じる微細な運動制御機能の低下、視覚障害など神経行動学的な有害影響に対する感受性は、母親の子宮内で胎児のステージからの出生前ばく露でも、生後の乳幼児からのばく露でも、いずれも脆弱性に差異はなく、妊婦、乳幼児は特にハイリスクグループとして、汚染された魚などからの摂取によるばく露を厳密に制限すべきとされた (JECFA FAS 58 (2007))。また、ヒトでは妊娠中にメチル水銀にばく露された米国ミシガン州の女性の集団のうち、出産までの妊娠期間が35週未満の早産であったサブグループの毛髪中の水銀濃度が同37週以上の完全な妊娠期間を経て出産した女性のサブグループの同値の90%タイル (0.55~2.5 μg/g) を超えるレベルを示す傾向にあった (ATSDR addendum (2013)) との記述がある。
一方、メチル水銀については胎児性水俣病と称される胎盤を経由したメチル水銀中毒と新生児水俣病発症との因果関係が明らかにされている。すなわち、有機水銀に汚染された魚貝類を摂取することで、メチル水銀にばく露された妊婦に神経症状がみられ、感覚障害から次第に運動失調、視野狭窄へと進行していくが、生まれた子供には知能障害、発育障害、言語障害、歩行障害、姿体変性など脳性麻痺様の症状がみられ、成人の場合と比べ重度である場合が多い。母体には臨床症状を必ずしも示さない量のメチル水銀でも、胎児はメチル水銀の排泄が悪く、感受性が高いことから水俣病の影響を受けやすいと記述されている (平成27 (2015) 年6月 衆議院調査局環境調査室編集 水俣病問題の概要 (2015))。この他、メチル水銀の実験動物での主たる標的臓器は中枢神経系であり、メチル水銀は実験動物及びヒトで催奇形性物質である (ACGIH (7th, 2001)) との記述もある。
以上、冒頭に記載したように、本項の分類には「メチル水銀」の毒性情報が適用可能と考え、本項の分類は「区分1A 」とし、「授乳影響」を追加した。