急性毒性
経口
ラットを用いた経口投与試験のLD50値>3,200 mg/kg(NICNAS(2008)、CERI・NITE有害性評価書(2008))及び> 40,000 mg/kg(環境省リスク評価第3巻(2004))から区分に該当しないとした。
経皮
ウサギを用いた経皮投与試験のLD50値>300 mg/kg が、NICNAS(2008)、CERI・NITE有害性評価書(2008)に記述されているが、区分の特定ができないので分類できない。
吸入: ガス
GHS定義上の固体であるため、ガスでの吸入は想定されず、分類対象外とした。
吸入: 蒸気
データがないので分類できない。
吸入: 粉じん及びミスト
ラットを用いた1時間吸入暴露試験におけるLC50値は>3.2 mg/L(CERI・NITE有害性評価書(2008))との記述がある。固体なので粉塵基準を適用すると、4時間換算LC50値は>0.8 mg/L より、区分を特定できないので分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
ウサギを用いた皮膚刺激性/腐食性試験(OECD TG 404)で「not irritating」、モルモットを用いた試験で「slightly irritating」(CERI・NITE有害性評価書(2008))と記述されており、区分に該当しないとした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
ウサギを用いた眼刺激性/腐食性試験(OECD TG 405)で「not irritating」とCERI・NITE有害性評価書(2008)に記述されているので、区分に該当しないとした。
呼吸器感作性
データ不足のため分類できない。なお、ヒトへの影響に関し、喘息を示唆する報告がHSDB(2002)にみられた。
皮膚感作性
【分類根拠】 (1)より、区分1とした。なお、新たな知見に基づき、分類結果を変更した。ECHA RAC Opinion(2014)にて感作性知見が公表されたため、旧分類から皮膚感作性項目のみ見直した(2021年)。
【根拠データ】 (1)マウス(n = 7)を用いた局所リンパ節試験(LLNA:BrdU-ELISA法)(OECD TG 442B、GLP)において、1回目の試験の刺激指数(SI値)は1.80(2.5%)、1.91(5%)、1.24(10%)であった。高用量ではSI値が1.6以下を示したため、繰り返し試験が実施された。2回目の試験のSI値は2.22(2.5%)、2.28(5%)、1.94(10%)であったとの報告がある(ECHA RAC Opinion (2014)、CLH Report (2014)、REACH登録情報 (Accessed Nov. 2021))。
生殖細胞変異原性
in vitro 変異原性試験(ネズミチフス菌を用いたAmes試験)が陰性とのデータがNTP DB(Access on October 2008)にあるが、in vivo試験のデータはないので、分類できない。
発がん性
主要な国際的評価機関による評価がなされておらず、データ不足のため分類できない。
生殖毒性
雌ラットを妊娠0日から哺育21日目まで経口投与した試験で「親動物に体重の低値、肝臓及び副腎の重量高値、小葉中心性肝細胞腫大が見られた用量で、妊娠期間延長、産児数減少及び児動物の影響として、雌雄で体重低値、腎臓・尿管欠損、雄で腎臓、精巣、精嚢、精巣上体、前立腺、肛門-球海綿体筋重量低値、精のう欠損、精巣上体低形成・無形成、小精巣、精巣内生殖細胞消失、ライディッヒ細胞過形成、精巣上体管腔内精子消失、雌で子宮低形成・無形成、卵巣および卵管の無形成、腎臓皮髄境界部鉱質沈着が見られた」(CERI・NITE有害性評価書(2008))との記述がある。以上、親動物に軽微な影響が見られる用量で、次世代に影響が見られたことにより区分1Bとした。 なお、雌雄ラットを用いた2世代繁殖毒性試験で「1,200 ppm以上投与群のF0及びF1雌雄親動物に、体重増加抑制、摂餌量の減少、肝臓のび漫性肝細胞肥大、甲状腺ろ胞上皮細胞の肥大が見られ、児動物の影響として、6,000 ppm群のF1児動物の雄及び1,200 ppm群以上のF2児動物の雄で肛門生殖突起間距離(AGD)の短縮及び乳輪の発現がみられた」、「F1雄親動物の精子数の減少が認められたが、交尾能及び受胎能に変化はなかった」(CERI・NITE有害性評価書(2008)、環境省リスク評価第3巻(2004))旨の記述もある。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
環境省リスク評価第3巻(2004)に「眼、皮膚、気道を刺激する」との記述があるので、区分3(気道刺激性)とした。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
雌雄ラットを用いた混餌による2世代繁殖毒性試験で「雌雄親動物F0の肝臓にび漫性肝細胞肥大、甲状腺ろ胞上皮細胞の肥大が見られた」(CERI・NITE有害性評価書(2008)、環境省リスク評価第3巻(2004))旨の記述があり、一次文献(経済産業省(2003):「二世代繁殖毒性試験報告書」 フタル酸ジシクロヘキシル)を確認したところ、「肝臓の変化は薬物代謝酵素の誘導と関連して惹起された際に起こる生体内の適応反応によるものと推察される。また、甲状腺ろ胞上皮細胞の肥大は、肝細胞肥大に付随する変化と考えられる」との記述がある。また、90日間経口投与試験で、区分2のガイダンス値の範囲外であるが「肝臓、腎臓の組織学的変化が見られた」(CERI・NITE有害性評価書(2008)、環境省リスク評価第3巻(2004))との記述がある。以上、本物質の投与により肝臓に影響が見られているが、生体内の適応反応によるものと推察されるとの考察もあるため、分類できない。
誤えん有害性*
データがないので分類できない。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。