急性毒性
経口
ラットのLD50値として、2,053 mg/kg、3,200 mg/kg、3,250mg/kg、3,730 mg/kg、3,200-6,400mg/kg、2,049-7,000 mg/kg(JECFA FAS32(1993)、DFGOT vol.20(2003)、PATTY(6th, 2012))の6件の報告があり、うち4件が該当する区分外(国連分類基準の区分5)とした。
経皮
ラットのLD50値として、> 2,000 mg/kg、> 3,000 mg/kg(DFGOT vol.20(2003))の報告、及びウサギのLD50値として、1,986 mg/kg、> 2,000 mg/kg、> 2,600 mg/kg(JECFA FAS32(1993)、DFGOT vol.20(2003)、PATTY(6th, 2012))の報告があり、最多該当数の区分外とした。JECFA FAS32(1993)のデータ及びPATTY(6th, 2012)のデータを追加し、区分を見直した。
吸入: ガス
GHSの定義における液体である。
吸入: 蒸気
データ不足のため分類できない。なお、ラットの蒸気吸入試験において、0.89 mg/L(4時間)(DFGOT vol.20(2003)、IUCLID(2000))、及び飽和蒸気(0.953 mg/L)(8時間)(4時間換算値:1.35 mg/L)(JECFA FAS32(1993)、PATTY(6th, 2012))で死亡例なしとの報告があるが、これらのデータのみではLC50値がどの区分に該当するかを特定できないため分類できない。なお、これらの値は、飽和蒸気圧濃度0.953 mg/L の90%より高いため、ミストを含む蒸気としてmg/Lを単位とする基準値を適用した。
吸入: 粉じん及びミスト
データ不足のため分類できない。なお、1.2 mg/L(6時間)(4時間換算値:1.8 mg/L)で死亡例なしとの報告(JECFA FAS32(1993)、DFGOT vol.20(2003)、PATTY(6th, 2012))、及び5.3 mg/L(エアロゾル/蒸気混合)(4時間)で全例死亡との報告(DFGOT vol.20(2003)、IUCLID(2000))があるが、これらのデータのみではLC50値がどの区分に該当するかを特定できないので分類できない。なお、これらの値は、飽和蒸気圧濃度0.953 mg/L より高いため、ミストとしてmg/Lを単位とする基準値を適用した。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
DFGOT vol.20(2003)には、ウサギの皮膚に無希釈の試験物質を4時間適用した試験(OECD TG 404)で、紅斑、浮腫及び瘢痕形成を伴う重度の刺激性を示し、皮膚刺激指数は6.75/8.0との報告や、ウサギを用いた試験で20時間閉塞ばく露により、24時間後に軽度の紅斑と浮腫形成、8日後に顕著な落屑がみられたとの報告がある。以上の情報に基づき、区分2とした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
DFGOT vol.20(2003)には、ウサギの眼に無希釈の試験物質0.1 mLを適用した試験(OECD TG 405)で、角膜、虹彩及び結膜に中等度~重度の刺激性を示し、眼刺激指数は28.59/110との報告がある。またECETOC TR48(1998)には、無希釈の試験物質0.1 mLをウサギの眼の結膜嚢に適用した試験で、24時間に角膜混濁、虹彩炎、結膜の発赤と浮腫がみられ、眼刺激指数(MMAS)は51.3/110であり、7日~14日後に回復したとの報告がある。以上の情報に基づき区分2Aとした。
呼吸器感作性
データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
データ不足のため分類できない。なお、DFGOT vol.20(2003)には、ボランティア29人に対するKligman法(マキシマイゼーション法)による皮膚感作性試験で、感作性がみられた人がいなかったとの報告や、製造/加工工場の産業医学部門報告で本物質は皮膚感作性物質ではないとの記述がある。
生殖細胞変異原性
ガイダンスの改訂により「区分外」が選択できなくなったため、「分類できない」とした。すなわち、in vivoでは、マウスの優性致死試験で陰性、マウス骨髄細胞の小核試験、ラット骨髄細胞の染色体異常試験で陰性である(DFGOT vol.20(2003))。In vitroでは、細菌の復帰突然変異試験、哺乳類培養細胞のhprt遺伝子突然変異試験、マウスリンフォーマ試験、染色体異常試験でいずれも陰性である(DFGOT vol.20(2003)、IUCLID(2000)、JECFA(1998)、NTP DB(Access on September 2013))。
発がん性
【分類根拠】 (1)、(2)より、本物質投与による発がん性の証拠は得られないため、区分に該当しない。
【根拠データ】 (1)マウスを用いた18ヵ月間強制経口投与による発がん性試験(50~750 mg/kg/day、5日/週)では、最高用量の750 mg/kg/dayで雌に肝細胞がんの軽度増加がみられた。高用量群雌の肝細胞がんは統計学的に水対照群とは有意差はないが、媒体(クレモフォアEL)対照群と比べ有意な増加がみられた。しかし、雄には腫瘍の増加はみられず、雌の肝細胞がんは生物学的意義がない、又は生物学的変動の範囲内と判断された。本物質を用いたマウスの試験では、雌雄ともに発がん性の証拠はないと結論された(JECFA FAS 40 (1998)、EU EFSA (2011)、産衛学会 許容濃度の勧告等 (2016))。 (2)ラットを用いた2年間強制経口投与による発がん性試験(50~500 mg/kg/day、5日/週)では、雌雄とも最高用量の500 mg/kg/dayまで腫瘍の発生増加は認められなかったが、高用量群の雌では死亡率が52%と高く、全身毒性影響が強かった。本物質を用いたラットの試験では、雌雄ともに発がん性の証拠はないと結論された(JECFA FAS 40 (1998)、EU EFSA (2011)、産衛学会 許容濃度の勧告等 (2016))。
【参考データ等】 (3)(1)の試験結果において、高用量群の雄マウスでは肝細胞がんの18%増加がみられたが、統計的に有意な増加ではなく、背景陰性対照データの範囲内であったこと、雌マウスでは肝細胞がんの10%の増加がみられ、対照群と比べて統計的に有意な増加であり(水対照群との比較では有意差なし)、かつ背景陰性対照データの範囲を超える増加であったこと、(2)のラットの試験において腫瘍の過剰発生はみられなかったが、雌では高い死亡率が制限要因となった可能性も考えられることを踏まえ、(1)における雌マウスの肝細胞がんの有意な増加に基づき、ACGIHは本物質の発がん性分類としてA3を提案した(ACGIH (2022))。
生殖毒性
ラットの妊娠12日目に経口投与により、母動物の毒性についての報告はないが、水腎、尾の異常、四肢奇形などの奇形胎児の発生増加がみられ(DFGOT vol.20(2003))、また、ラットの器官形成期に経口投与した発生毒性試験では、母動物に死亡、一般症状、摂餌量低下及び体重増加抑制がみられた用量で、吸収胚、着床後損失率の明らかな増加、腎盂拡張や水尿管症の胎児増加に加え、骨格奇形の増加を示し、本物質は母体及び胚・胎児に毒性を生じる用量でのみ催奇形性を有すると結論付けされている(DFGOT vol.20(2003))ことから、区分2とした。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
本物質は、ヒトの職業ばく露において頭痛、眩暈、疲労感、腸障害、軽度の血圧低下を起すと報告されている(PATTY(6th, 2012))。動物試験ではマウス、ラット、モルモットの単回吸入投与試験(1.8 mg/L/4時間、ミスト(6h、227ppmばく露の換算))で、肺出血及び回復性の中枢神経抑制及び眼、鼻、喉及び呼吸経路の粘膜の刺激が認められた(JECFA FAS32(1993)、DFGOT vol.20(2003))との報告に基づき区分2(呼吸器)、区分3(麻酔作用)とした。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
DFGOT vol. 20(2003)、PATTY(6th, 2012)及びJECFA FAS 32(1996)の記述より、ラットの13週間及び2年間強制経口投与又は13週間混餌投与試験並びにマウスの18ヶ月間強制経口投与試験のいずれの試験においても、区分2までの用量範囲内で毒性影響はみられず、区分2を超える用量では肝臓(重量増加、ペルオキシゾーム増殖など)、腎臓(皮質変性)、前胃(上皮過形成)がみられた。一方、ラットに本物質蒸気を90日間吸入ばく露した試験では、最高濃度(120 ppm; 0.65 mg/L)まで毒性影響は認められなかったが、試験濃度が区分2の範囲をカバーしておらず、ガイダンス値上限での毒性影響の有無は不明であるため、分類に用いるには不十分なデータと判断された。また、分類に利用できる経皮ばく露のデータはない。以上、経口経路では区分外相当であるが、他の経路の毒性情報が不十分であり、全体としてデータ不足のため分類できないとした。
誤えん有害性*
データ不足のため分類できない。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。