急性毒性
経口
GHS分類: 区分3 ラットのLD50値として、100~300 mg/kg (PATTY (6th, 2012)、ACGIH (7th, 2002)、NTP TR 477 (1998)) との報告に基づき区分3とした。
経皮
GHS分類: 区分3 工業等級の本物質 (本物質75%、2-クロロ-1-プロパノール25%で構成) のラットのLD50値として、440 mg/kg (ACGIH (7th, 2002))、ウサギのLD50値として、480 mg/kg及び約500 mg/kg (PATTY (6th, 2012))、530.6 mg/kg (PATTY (6th, 2012)、ACGIH (7th, 2002)) との報告に基づき、区分3とした。なお、1-クロロ-2-プロパノールと2-クロロ-1-プロパノールは急性毒性 (経口) において同等の毒性を有している (1-クロロ-2-プロパノールの経口LD50値は100~300 mg/kg、2-クロロ-1-プロパノールの経口LD50値は218 mg/kgであり、いずれも区分3に分類される) ことに基づき、経皮についても同等の毒性を有するとみなした。
吸入:ガス
GHS分類: 分類対象外 GHSの定義における液体である。
吸入:蒸気
GHS分類: 区分3 本物質のラットのLC50値 (4時間) として、1,000 ppmとの報告 (ACGIH (7th, 2002)) に基づき、区分3とした。なお、LC50値が飽和蒸気圧濃度 (6,447 ppm) の90%より低いため、ミストを含まないものとしてppmを単位とする基準値を適用した。
吸入:粉じん及びミスト
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。なお、本物質の異性体である2-クロロ-1-プロパノールには、皮膚に刺激性あり (HSDB (2015)) との記載がある。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。なお、本物質の異性体である2-クロロ-1-プロパノールには、眼に刺激性あり (HSDB (2015)) との記載がある。
呼吸器感作性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
生殖細胞変異原性
GHS分類: 区分2 工業等級の本物質 (本物質75%、2-クロロ-1-プロパノール25%) を用いた報告がある。In vivoではマウス飲水投与による末梢血を用いた小核試験で陰性の報告があるが、ラット経口投与による骨髄細胞を用いた染色体異常試験で陽性、哺乳類 (詳細不明) を用いた染色体異常試験で陽性の結果がある (NTP DB (2015)、ACGIH (7th, 2002))。In vitroでは細菌を用いた復帰突然変異試験、哺乳類培養細胞を用いたマウスリンフォーマ試験、染色体異常試験、小核試験及び姉妹染色分体交換試験でいずれも陽性 (NTP DB (2015)、ACGIH (7th, 2002)、NTP TR 477 (1998)、PATTY (6th, 2012)) の報告がある。ACGIH (2002) には、異性体混合物と比べて1-クロロ-2-プロパノールはわずかに変異原性が弱いとの記載があり、ほぼ同等の変異原性を示すと考えられることから、異性体混合物のデータをもとに区分をおこなうこととした。以上より、in vivo染色体異常の陽性に加え、in vitroにおいて複数の試験で陽性結果が認められることから、区分2とした。
発がん性
GHS分類: 分類できない ヒトでは本物質単独ばく露による発がん性の情報はない。しかし、本物質、2-クロロ-1-プロパノール (本物質の異性体) を含むクロロヒドリン化合物の製造工場に従事した男性作業者を対象としたコホート研究において、当初、膵臓がん、及びリンパ造血系腫瘍による死亡率の増加が報告されたが、その後 国際がん研究機関 (IARC) によるプロピレンクロロヒドリン (2-クロロ-1-プロパノールの別名) を含む関連化合物に対するヒト発がん性評価が実施され (IARC vol. 20 (1978))、クロロヒドリン化合物製造工場での発がん性報告は発がん性の疫学的証拠としては不十分であるとされ、IARC はいずれの腫瘍に対しても発がんリスクの増加はないと結論した経緯がACGIH に引用されている (ACGIH (7th, 2002))。さらに、IARC評価後、他の3箇所のクロロヒドリン化合物製造施設における疫学調査でも工場での作業と膵臓がん発生率増加の間に相関のないことが報告された (ACGIH (7th, 2002))。ただし、膵臓がんによる死亡率増加を報告した研究のコホート追跡期間が35年であったのに対し、相関性なしとした報告の追跡期間は25年間と短いことを指摘して、ACGIHは本物質ばく露と発がんとの関連性について、疫学研究からはまだ結論を導き出せないとの見解を示した (ACGIH (7th, 2002))。これに関連し、米国のエチレン及びプロピレンクロロヒドロクロリン製造工場に従事した男性作業者1,361名を対象とした膵臓がん、及びリンパ造血系腫瘍による死亡例のコホート研究で、膵臓がん、リンパ造血系腫瘍の過剰リスクはなかったとの記述もある (PATTY (6th, 2012))。 一方、実験動物では工業等級の本物質 (本物質75%、2-クロロ-1-プロパノール25%で構成) をラット、又はマウスに2年間飲水投与した試験において、いずれの組織にも腫瘍発生頻度の増加はみられていない (ACGIH (7th, 2002)、PATTY (6th, 2012))。また、A系マウスを用いた肺腺腫数の増加を指標とするバイオアッセイでも本物質は陰性であった (ACGIH (7th, 2002))。 このように、実験動物では発がん性の証拠はないが、本物質の遺伝毒性試験では陽性の結果が複数あること、ヒトの疫学データからは本物質ばく露とヒト発がんとの関連性について結論を下せないとの判断から、ACGIHは本物質、及び2-クロロ-1-プロパノールの発がん性分類結果をA4とした (ACGIH (7th, 2002))。以上、ACGIHの見解も踏まえ、本項については分類できないとした。
生殖毒性
GHS分類: 分類できない 本物質のヒトでの生殖毒性に関する情報はない。実験動物では、ラットを用いた経口経路 (飲水) での連続交配試験の結果、本物質はF0、F1の2世代を通して受胎能に有害影響を及ぼさず、雄の生殖器官には精巣重量、異常精子産生などの影響を生じるが、雌の生殖器官には影響を及ぼさないと記述されている (Environ. Health Perspect., vol. 105, Suppl. 1, 291-292 (1997))。また、催奇形性試験については、妊娠ラットに妊娠6~15日に強制経口投与した予備的試験において、125 mg/kg/dayまで胎児に奇形影響はみられなかったとの記述があるが (ACGIH (7th, 2002))、統計解析が未実施で、使用動物数など試験条件及び結果の詳細が不明で、これを含め分類に利用可能なデータはない。 なお、工業等級の本物質 (本物質75%、2-クロロ-1-プロパノール25%の組成) をラットに経口 (飲水) 投与した連続交配試験においても、母動物に分娩時、及び哺育期間中の体重の低値、F1児動物に離乳時まで体重の低値推移がみられる用量においても、雌雄対当たりの妊娠腹数は対照群と差異がなく、親動物の生殖能への有害影響はみられないと報告されている (ACGIH (7th, 2002)、PATTY (6th, 2012))。 以上、本物質は工業等級品も含めて生殖能への影響はないと考えられるが、催奇形性を含む発生毒性影響について、十分な試験報告がなく、データ不足のため分類できないとした。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
GHS分類: 区分3 (麻酔作用) 本物質のみか、異性体混合物かの特定はできないが、実験動物では、経口投与で、ラット及びモルモットに麻酔作用が認められている (ACGIH (7th, 2002))。ヒトの知見はない。 以上より、麻酔作用とした。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
GHS分類: 区分1 (血液系、肝臓), 区分2 (腎臓、膵臓) 本物質のヒトに関する情報はない。 本物質の反復投与毒性に関する情報はない。 工業用等級の本物質 (本物質: 75%、2-クロロ-1-プロパノール: 25%) の反復投与毒性に関する情報が得られている。 ACGIH (7th, 2002)では工業用等級の本物質のデータを基に、本物質及び2-クロロ-1-プロパノールのTLV-TWAを同じ1 ppmとしている。したがって、各異性体の毒性は同等と仮定し工業用等級の本物質のデータを基に分類した。 実験動物では、ラットを用いた14週間飲水投与試験において、区分1に相当する5 mg/kg/day以上で軽微~軽度貧血、区分2に相当する10 mg/kg/day以上で肝臓の細胞質空胞化、100 mg/kg/day以上で膵臓の腺房細胞の変性・脂肪化がみられた。その他、区分外に相当する220 mg/kg/dayで腎臓尿細管上皮の変性あるいは、精巣上体重量減少、異常精子増加がみられた。マウスを用いた14週間飲水投与試験において、区分1に相当する5 mg/kg/day以上で肝臓の細胞質空胞化、区分2に相当する100 mg/kg/dayで腎臓の尿細管空胞化がみられた。その他、区分外に相当する220 mg/kg/dayで、膵臓の腺房細胞の変性・脂肪化、軽度貧血がみられた (NTP TR477 (1998)、ACGIH (7th, 2002)、PATTY (6th, 2012))。 このほか、ラットを用いた2~15回吸入ばく露試験において、区分1の範囲で肺のうっ血・血管周囲の水腫がみられ、死亡例では肝臓の肝細胞腫大・空胞化、肺の間質性肺炎がみられた。しかし、動物数が2~4例/性/群と少ないこと、投与回数も少ないことから不十分なデータであり、分類には用いなかった。 したがって、経口経路での区分は区分1 (血液系、肝臓)、区分2 (腎臓、膵臓) とした。
吸引性呼吸器有害性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。