急性毒性
経口
ラットを用いた経口投与試験のLD50値は1,600-3,200 mg/kg(ACGIH(7th, 2001))、1,600 mg/kg(Patty(5th, 2001))、3,640 mg/kg、3,270 mg/kg、2,043 mg/kg(IUCLID(2000))との記述がある。GLP準拠試験のLD50値2,043 mg/kgが区分外の範囲にあり、また区分外に存在するデータが多い。LD50値2,043 mg/kgは国連GHS急性毒性区分5に該当するが、国内では不採用区分につき、区分外とした。
経皮
ウサギを用いた経皮投与試験のLD50値1,140 mg/kg(ACGIH(7th, 2001))1,260 mg/kg(Patty(5th, 2001))、またウサギを用いた経皮投与試験(OECD TG 402、GLP)のLD50値>2,000 mg/kg (IUCLID(2000))との記述がある。OECD TG準拠で区分外相当の結果があるが、List1の情報源に区分4に相当するデータが複数個あるので、区分4とした。
吸入
吸入(ガス): GHS定義上の液体であるため、ガスでの吸入は想定されず、分類対象外とした。
吸入(蒸気): 20℃の飽和蒸気圧濃度が0.23 mg/Lの液体である。ラットを用いた8時間吸入ばく露試験で「飽和蒸気に8時間ばく露しても1匹も死ななかった」(ACGIH(7th, 2001))との記述より、蒸気基準を適用すると4時間換算LC50値は>0.46 mg/Lで、区分を特定できないので、分類できない。
吸入(ミスト): 20℃の飽和蒸気圧濃度が0.23 mg/Lの液体である。ラットを用いた6時間吸入ばく露試験で「2.36 mg/Lに6時間ばく露しても1匹も死ななかった」(Patty(5th, 2001))との記述より、ミスト基準を適用すると、4時間換算LC50値>3.54 mg/Lとなる。区分を特定できないので、分類できない。
皮膚腐食性・刺激性
Patty(5th, 2001)に、モルモットに24時間経皮投与した試験(1955年)では「非希釈液はslight な浮腫, 紅斑, 壊死 だが、20%希釈液では浮腫はないか very slightな浮腫 、slight to moderateな発赤」との記述、6匹のウサギに非希釈液を4時間投与した試験(1986年)でも「5匹にslightな壊死とそれに続くslight to moderateな痂皮の形成」との記述がある。さらにIUCLID(2000)に、ウサギの4時間皮膚刺激試験で「corrosive」との記述が3件あり、1件は上述の1986年のウサギの試験結果である。一方、IUCLID(2000)にウサギを用いた皮膚刺激試験(OECD TG 404、GLP)で「not irritating」との記述があるが、一次文献は企業レポートなので希釈条件は不明である。1955年のデータでモルモットに用量依存的なデータがあり、さらにIUCLID(2000)に回復性に関する記述はないが、「corrosive」と評価されたデータが3件あることは無視できないので、区分1とした。
眼に対する重篤な損傷・刺激性
ACGIH(7th, 2001)に「ウサギの眼損傷に関する2件の研究結果より、本物質を10段階の分類で5に評価した」との記述がある。IUCLID(2000) には、ウサギの眼に希釈液を滴下した眼刺激性試験結果で「5%ではirritating、1%ではonly trace injury」との記述と、ウサギの眼刺激性・腐食性試験(OECD TG 405、GLP)で「not irritating」との記述がある。一方、ヒト事例として「結膜損傷が1例あるが、迅速に治癒した」(Patty(5th, 2001))との記述もある。OECD TG準拠の試験は企業データで希釈率が不明なので、細区分せずに「区分2」とした。 なお、別のウサギを用いた眼刺激性試験について、ACGIH(7th, 2001)には「severe corneal necrosis」と記述されているが、IUCLID(2000)では「irritating」、Patty(5th, 2001)では「severe corneal irritation」と評価が分かれている。このデータは情報源により評価が分かれており、一次文献J. Ind. Hyg. Toxicol. 26 (1944)には「Range Finding Testなので、精度は十分でない」との記述もあるので採用しない。
呼吸器感作性又は皮膚感作性
呼吸器感作性:データがないので分類できない。
皮膚感作性:データがないので分類できない。
生殖細胞変異原性
in vivo試験のデータがないので分類できない。 なお、in vitro変異原性試験では、CHO培養細胞を用いた染色体異常試験と姉妹染色分体交換試験でともに「陽性」(NTP DB(Access on January 2009))との記述、ネズミチフス菌を用いたAmes試験で「陰性」(Patty(5th, 2001))との記述がある。
発がん性
主要な国際的評価機関による評価がなく、データもないので分類できない。
生殖毒性
妊娠6-19日のラットにNa塩として100-600 mg/kgで飲水経口投与した試験で「高用量では母動物に体重減少が見られそれ以下では影響がなかったが、胎児には用量依存的に内反足、多指、腓骨欠如などの骨格異常がみられた」(Patty(5th, 2001))旨の記述があった。この試験の一次文献 (Fundam. Appl. Toxicol. 19(1992))を精査したところ、「骨格奇形の見られた一腹あたりの胎児数はコントロール群に比べ用量依存的に増加しているが、内反足が最も重大な骨格奇形である」と記述され、この試験についてNTP-CERHR(2000)は「内反足の他に統計的に有意な増加を示した奇形はなかった。骨格変異として波状肋骨は、全ての投与群で増加していた」と記述している。さらに、Na塩として100-600 mg/kgで、雌ラットは交配前の2週間から妊娠期と授乳期、雄ラットは交配前の10週間飲水投与した試験で「最高用量群の雌に摂餌量と体重の減少が見られた以外に影響はほとんど見られず、雄の精巣上体、精巣、前立腺、精嚢と非妊娠雌の卵巣、子宮、膣に病理組織学的な変化は見られなかった。しかし、最高用量群の雄と交配すると、受胎は遅延し一腹あたりの児数が減少した」(ACGIH(7th, 2001)、Patty(5th, 2001))との記述がある。以上より、区分1Bとした。 なお、Patty(5th, 2001)とACGIH(7th, 2001)には、妊娠7日と8日のマウスに昼と夜1回ずつ(R)体、(S)体、ラセミ体の各ナトリウム塩を腹腔内投与した試験で「(S)体では催奇形性も胎児毒性も見られないが、(R)体は外脳の高い発生率を示し、ラセミ体は両者の中間程度の影響を示した」旨の記述があり、胎児毒性の程度の差を本物質がラセミ体であることと関連付けている。 EU分類はRepr. Cat. 3; R63(EU-AnnexⅠ)である。
特定標的臓器・全身毒性(単回ばく露)
ACGIH(7th, 2001)に、ラットの経口致死量を求める試験で「一過性の衰弱が見られた」旨の記述と、ラットに飽和蒸気圧以上の濃度で吸入ばく露した試験で、区分2のガイダンス値範囲内で「臨床兆候は見られなかった」旨の記述がある。一方、List 2の情報源であるHSDB(2008)のヒト影響の項には「吸入による喉頭と気管支の浮腫や痙攣、化学性肺炎、肺水腫が致命的である可能性」との記述があるなので区分2(呼吸器系)とした。
特定標的臓器・全身毒性(反復ばく露)
ラットとマウスを用いた13週間混餌投与試験で、区分2のガイダンス値の範囲外で「ラットとマウスともに体重、体重増加、摂餌量がわずかに低下し、肝細胞肥大と肝臓の好酸球増加がみられた。マウスでは、近位尿細管の細胞質における好塩基球増加、マウス雄に前胃の表皮肥厚と過角化症がみられた」(Patty(5th, 2001))との記述がある。経口経路では重大な影響はみられていないが、吸入経路、経皮経路での影響が不明なので、分類できない。
吸引性呼吸器有害性
データがないので分類できない。