急性毒性
経口
ラットのLD50値として8件のデータ[3250, 3000 mg/kg(以上 農薬登録申請資料(2002))、2000, 670, 740, 2300 mg/kg(以上 IARC 73 (1999))、1471, 1212 mg/kg(以上 ATSDR (2003))]。(GHS分類:区分4)
経皮
ラットのLD50値が3件[>5000, >2000 mg/kg(以上 農薬登録申請資料(2002)), >3100 mg/kg(PATTY (5th, 2001))]あり、ウサギのLD50値が1件[9300 mg/kg(PATTY (5th, 2001)]ある。(GHS分類:区分外)
吸入
吸入(粉じん・ミスト): ラットのLC50値として > 5.148mg/L/4hおよび> 5.82mg/L/4h(農薬登録申請資料(2002))、>2.84 mg/L/4hおよび8 mg/L/4h(以上 PATTY (5th, 2001))。なお、試験濃度は飽和蒸気圧濃度(3..35x10^(-6) mg/L)より高いので、粉じん/ミストの基準値を適用した。(GHS分類:区分外)
吸入(蒸気): データなし。(GHS分類:分類できない)
吸入(ガス): GHSの定義における固体である。(GHS分類:分類対象外)
皮膚腐食性・刺激性
ウサギに農薬原体として0.5 gを24時間適用した試験で軽度の刺激性(農薬登録申請資料(198))、また、ウサギに0.5 gを24時間適用した試験で刺激性なし(not irritating: )と報告されている(IUCLID (2000))が、さらに、本物質はウサギにおいて軽微な刺激性(minimally irritating)(PATTY (5th, 2001))。(GHS分類:区分外)
眼に対する重篤な損傷・刺激性
ウサギの眼に0.1gを適用した試験において、農薬原体では刺激性なし、50%水和剤では軽度の刺激性を有する(農薬登録申請資料(1989))。さらに、本物質はウサギの眼に対し軽度の刺激性(mildly irritating)を有する(PATTY (5th, 2001))。(GHS分類:区分2B)
呼吸器感作性又は皮膚感作性
皮膚感作性:農薬原体によるモルモットのマキシマイゼーション試験(OECD TG 406)で17/20例に皮膚反応がみられ、陽性率85%との結果(農薬登録申請資料(1997))、さらに、モルモットを用いた別のマキシマイゼーション試験(OECD TG 406, GLP)において動物の65~70%が皮膚反応(陽性率)を示し、本物質は皮膚感作物質として分類される(IUCLID (2000))。なお、50%水和剤によるモルモットのビューラー試験で陰性(農薬登録申請資料, 1997)、また、ヒトでは50人の被験者に対する反復パッチテストで皮膚反応はみられず、感作性なし(not sensitizing)との報告(IUCLID (2000))もある。(GHS分類:区分1)
呼吸器感作性:データなし。(GHS分類:分類できない)
生殖細胞変異原性
マウスに経口投与による優性致死試験(生殖細胞in vivo経世代変異原性試験)における弱陽性(ATSDR (2003))の結果は、1用量のみの試験のため評価できず、また、体細胞in vivo変異原性試験としては、マウスに経口投与による骨髄細胞を用いた小核試験は雌で陽性、雄で陰性と相反する結果(ATSDR (2003)であったが、性差についての言及はなく、陰性対照動物は1匹のみであり評価できなかった。さらに、マウスに90日間飲水投与(20 ppm)による骨髄細胞を用いた染色体異常試験で陰性(ATSDR (2003))が報告されているが、試験用量20 ppmの妥当性や短期間高用量ばく露での影響の評価は困難であった。in vivo試験としてその他にもマウスに腹腔内投与による骨髄を用いた小核試験で陰性(ATSDR (2003))、ラットに経口投与によるDNA損傷試験(体細胞in vivo遺伝毒性試験)で胃、肝臓、腎臓で陰性、肺で陽性を示した(ATSDR (2003))との報告もあり、複数のin vivo試験の結果が報告されているが、分類の根拠として、いずれも評価困難であったため「分類できない」とした。なお、in vitro試験としては、エームス試験で陰性(NTP DB (Access on June2009))、ヒトリンパ球およびCHO細胞を用いた染色体異常試験でいずれも陰性(IARC 73 (1999))。(GHS分類:分類できない)
発がん性
IARCによる発がん性評価でグループ3(IARC 73 (1999))、かつ、ACGIHによりA4(ACGIH (2001))に分類されている。なお、マウスの91週間混餌投与試験では投与に関連する腫瘍発生率の増加はなかった(IARC 73 (1999))。また、ラットにおいては、104週間混餌投与した試験で発がん性について各群とも有意な影響は認められず(IARC 73 (1999))、SD系ラットに最大106週間混餌投与した別の試験では、雌の乳腺において線維腺腫および腺癌の発生率が有意に増加した(IARC 73 (1999))。(GHS分類:分類できない)
生殖毒性
ラットに交配前10週から2世代にわたり継続的に混餌投与した試験において、最大耐量(500 ppm)の投与により、生殖能または出生前後の指標には影響を及ぼさず、投与に関連する奇形、胚毒性、特異的な胎児毒性の発生も見られなかった(IUCLID (2000))が、ウサギの器官形成期に経口投与した試験で、母動物が体重減少と摂餌量低下を示した用量(75 mg/kg)で、2/19例で流産の発生、胎児吸収および着床後胚損失の発生率増加が報告されている(IARC 73 (1999))。なお、ウサギの器官形成期投与試験で奇形発生率の用量依存的な増加は認められていない。(GHS分類:区分2)
特定標的臓器・全身毒性(単回ばく露)
複数の急性経口毒性試験において、ラットに対し、600~6000 mg/kgの用量で鎮静、呼吸困難、眼球突出、別に2000~5500 mg/kgで活動低下、運動失調、流涎など、また、マウスに対し、444~1332 mg/kgで活動低下、眼瞼下垂、運動失調、振戦など、別に1670~6000 mg/kgで鎮静、呼吸困難がそれぞれ報告されている(IUCLID (2000))。一方、神経系に対する影響が検討され、ラットに100 mg/kgを単回経口投与後、小脳活動の低下、橈骨神経刺激後に誘発されるプルキンエ細胞のスパイク活動の停止などの小脳に対する影響が報告されている(ATSDR (2000))。以上より、急性経口毒性試験で観察された症状から、ガイダンス値区分2に相当する用量以上で神経系への影響が示唆され、さらに、小脳に対する影響を示す研究報告も考慮した。なお、吸入投与では5.1 mg/L(粉じん)の濃度で、経皮投与では2000 mg/kgの用量でいずれも重大な毒性の発現は見られていない(IUCLID (2000))。(GHS分類:区分2(神経系))
特定標的臓器・全身毒性(反復ばく露)
ラットに100~600 mg/kg/dayを7または14日間経口投与(90日換算用量:15.6-93.3 mg/kg/day)により、最低用量を除く全用量で、血清GPTおよびアルカリフォスファターゼ活性の上昇、電顕所見として滑面小胞体の変性、脂肪滴の蓄積、ミトコンドリアの腫大に見られる肝毒性、および全用量で蛋白尿、クレアチニンクリアランスの低下、尿中電解質の排出増加を含む腎毒性を引き起こした(IARC 73 (1999))と報告されている。試験用量はガイダンス値区分2の範囲にある。一方、イヌの1年間混餌投与試験における最も重大な影響は、1000 ppm(34 mg/kg/day)群で顕著に認められた散在性の心筋変性を特徴とする心臓障害であり、腹水、悪液質、努力性/浅呼吸、心電図異常に見られる心毒性の症状、剖検では右心房拡張、組織学的には萎縮と骨髄症が認められた。(GHS分類:区分2(心臓、肝臓、腎臓))
吸引性呼吸器有害性
データなし。(GHS分類:分類できない)