急性毒性
経口
GHS分類: 区分3
ラットのLD50値として、140 mg/kg (雄)、190 mg/kg (雌) (食品安全委員会農薬評価書 (2013)、JMPR (2002)) の2件の報告がある。これらのデータに基づき、区分3とした。
なお、本物質は専門家判断に基づき、情報源としてJMPR、食品安全委員会のLD50値を優先的に採用した。
経皮
GHS分類: 区分3
ラットのLD50値として、1,000 mg/kg (食品安全委員会農薬評価書 (2013)、JMPR (2002)) の報告があり、区分3に該当する。
ウサギのLD50値として、900 mg/kg (JMPR (2002)) の報告があり、区分3に該当する。これらのデータに基づき区分3とした。新たに入手した情報に基づき、区分を見直した。
なお、本物質は専門家判断に基づき、情報源としてJMPR、食品安全委員会のLD50値を優先的に採用した。
吸入:ガス
GHS分類: 分類対象外
GHSの定義における固体である。
吸入:蒸気
GHS分類: 分類対象外
GHSの定義における固体である。
吸入:粉じん及びミスト
GHS分類: 区分4
ラットのLC50値 (4時間) として、0.002 mg/L (雌雄) (JMPR (2002))、1,560 mg/m3 (ATSDR (2005))、1,600 mg/m3 (DFGOT vol.16 (2001)、JMPR (1989、1997)) の3件の報告がある。1件が区分1に、2件が区分4に該当する。件数の最も多い区分4とした。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
GHS分類: 区分外
ウサギの皮膚一次刺激性試験において刺激性は認められなかった (ATSDR (2005)、DFGOT vol.16 (2001)、EHC 124 (1991)、EPA RED (2002)、JMPR (2002)) ことから、区分外とした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
GHS分類: 区分2B
ウサギの眼一次刺激性試験で軽度の一過性の刺激性が認められた (ATSDR (2005)、DFGOT vol.16 (2001)、EHC 124 (1991)) ことから、区分2Bとした。
呼吸器感作性
GHS分類: 分類できない
データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
GHS分類: 区分外
モルモットのマキシマイゼーション法による皮膚感作性試験で陰性であった (ATSDR (2005)、DFGOT vol.16 (2001)、EHC 124 (1991)、JMPR (2002))。また、農業従事者等を対象としたパッチテストでも陰性であった (DFGOT vol.16 (2001)、EHC 124 (1991))ことから、区分外とした。
生殖細胞変異原性
GHS分類: 分類できない
ガイダンスの改訂により区分外が選択できなくなったため、分類できないとした。すなわち、in vivoでは、ラット、マウスの優性致死試験で陰性、マウスの骨髄細胞を用いた小核試験で陰性、染色体異常試験ではラット骨髄細胞で陰性、マウス骨髄細胞で陽性、シリアンハムスター骨髄細胞で陰性、マウス骨髄細胞の姉妹染色分体交換試験で陽性、陰性の結果が報告されている (ATSDR (2005)、DFGOT vol.16 (2001)、EHC 124 (1991)、ACGIH (7th, 2001)、JMPR (2002))。In vitroでは、細菌の復帰突然変異試験のほとんどで陰性、哺乳類培養細胞の遺伝子突然変異試験で陰性、染色体異常試験で陽性、陰性の結果、姉妹染色分体交換試験で陰性である (ATSDR (2005)、ACGIH (7th, 2001)、EHC 124 (1991)、JMPR (2002))。食品安全委員会農薬評価書 (2013) は復帰突然変異試験、染色体異常試験及び SCE 試験の一部において陽性の結果が得られたものの、その他の多くの試験では陰性の結果であり、またJMPR (2002) が本物質に遺伝毒性は認められないと結論づけていることを根拠に、本物質に生体にとって問題となる遺伝毒性はないと結論している。以上より、本分類でも遺伝毒性はないと判断した。
発がん性
GHS分類: 区分1A
IARCは最新の評価において、本物質はヒトで非ホジキンリンパ腫を生じるとの十分な証拠があるとして、分類区分を従来のグループ2B (IARC Suppl. 7 (1987)) からグループ1に引き上げた (IARC 113 (in prep., Access on June 2016)、IARC Press Release No. 236 (Access on June 2016))。実験動物ではラット、マウスに経口投与した試験で肝臓腫瘍の増加に加え、マウスでリンパ細網内皮系組織の腫瘍、ラットで甲状腺腫瘍の増加などが報告されている (IARC Suppl. 7 (1987))。以上、本項は区分1Aとした。
なお、他機関による分類結果としては、ACGIHがA3 (confirmed animal carcinogen: 区分2相当) (ACGIH (7th, 2001))、NTPがR (区分1B又は区分2相当) (NTP RoC (13th, 2014)) に分類している。
生殖毒性
GHS分類: 区分1B
ヒトではイスラエルの不妊の男性と一般人男性集団の間で血中本物質濃度を調べた疫学研究において、不妊の男性では一般人男性と比べて血中本物質濃度が高かった (JMPR (2002)) との記述、及び子宮内胎児成長遅延と診断されたインドの妊婦30人では正常妊婦24人と比べて血清中本物質及び異性体濃度が高値を示した (ATSDR (2005)) との記述がある。
実験動物ではラットの混餌投与による2世代生殖毒性試験で、F0、F1親動物に体重増加抑制、肝臓・腎臓重量増加、小葉周辺性肝細胞肥大、水腎症などがみられる用量で、F2児動物に離乳までの体重の低値、歯の萌出及び体毛成長の遅延がみられている (JMPR (2002))。一方、妊娠ラット、妊娠マウス、及び妊娠ウサギの器官形成期に本物質を強制経口投与した発生毒性試験では、母動物に体重増加抑制及び死亡 (ラット、マウス)、流産(マウス)、頻呼吸、嗜眠 (ウサギ) が生じる用量においても、胎児への影響は軽微な影響 (骨格変異、体重の低値) のみであった (JMPR (2002)、DFGOT vol. 16 (2001))。しかし、妊娠イヌ (14~15匹/群) の妊娠1~5日に7.5及び15 mg/kg/dayを経口 (混餌) 投与した試験では、母動物に異常はなかったが用量非依存的な死産児数の増加がみられた (DFGOT vol. 16 (2001)、JMPR (2002)) との報告がある。
以上、ヒトにおける生殖影響の限定的な知見、並びに実験動物での知見 (ラットF2児動物の生後の発達遅延、及び妊娠イヌにおける死産児増加) より、本項は区分1Bとするのが妥当と判断した。