急性毒性
経口
GHS分類: 区分4 ラットのLD50値として、346.5 mg/kg (ECETOC JACC 19 (1991))、378 mg/kg (雌)、396 mg/kg (雌)、402 mg/kg (雄)、435 mg/kg (雄)、520 mg/kg (雄) (以上DFGOT vol. 5 (1993))、590 mg/kg (雌雄)、820 mg/kg (雄) (以上ECETOC JACC 19 (1991)) との報告に基づき、区分4とした。
経皮
GHS分類: 区分外 ウサギのLD50値として、4,380 mg/kg (雄)、4,990 mg/kg、6,600 mg/kg (雄) (いずれもECETOC JACC 19 (1991)) の3件の報告があり、2件が区分外 (国連分類基準の区分5)、1件が区分外に該当する。件数の多い区分を採用して、区分外 (国連分類基準の区分5) とした。
吸入:ガス
GHS分類: 分類対象外 GHSの定義における固体である。なお、工業製品 (純度95%以上) については、融点が11~13℃なので液体である。
吸入:蒸気
GHS分類: 区分2 GHSの定義における固体であるが、工業製品 (純度95%以上) については、融点が11~13℃なので液体である。 工業製品を用いたラットの4時間吸入試験のLC50値として、359 ppm (雄)、385 ppm (雌) (いずれもDFGOT vol. 5 (1993)、ECETOC JACC 19 (1991))、660 ppm (ACGIH (7th, 2001))、6時間吸入試験のLC50値として、284 ppm (雄) (4時間換算値: 348 ppm)、353 ppm (雌) (4時間換算値: 432 ppm) (いずれもECETOC JACC 19 (1991)) の5件の報告があり、4件が区分2、1件が区分3に該当する。件数の多い区分を採用して、区分2とした。なお、ばく露濃度が飽和蒸気圧濃度 ((1,782 ppm) の90%より低いため、ミストがほとんど混在しないものとしてppmを単位とする基準値を適用した。
吸入:粉じん及びミスト
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
GHS分類: 区分2 ウサギを用いた皮膚刺激性試験において、中等度の刺激性を有するとの報告 (ECETOC JACC 19 (1991)) から、区分2とした。なお、EU CLP分類において本物質はSkin Irrit. 2 に分類されている (ECHA CL Inventory (Access on June 2017))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
GHS分類: 区分2B ウサギを用いた眼刺激性試験において、本物質は軽度 (only slight) の角膜損傷を示したとの報告 (ECETOC JACC 19 (1991)) から、区分2Bとした。なお、EU CLP分類において本物質はEye Irrit. 2 に分類されている (ECHA CL Inventory (Access on June 2017))。
呼吸器感作性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
GHS分類: 分類できない モルモットを用いた皮膚感作性試験において、2件の試験結果のいずれも陰性との報告 (ECETOC JACC 19 (1991)、DFGOT vol. 6 (1993)) があるが、ヒトでの情報が得られなかったため、分類できないとした。
生殖細胞変異原性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。すなわち、in vivoデータはなく、in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験、哺乳類培養細胞の染色体異常試験で陰性である (厚労省既存化学物質毒性データベース (Access on July 2017)、SIDS (2002)、環境省リスク評価第11巻 (2013)、DFGOT vol. 5 (1993)、PATTY (6th, 2012))。
発がん性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
生殖毒性
GHS分類: 区分2 ラットを用いた強制経口投与による反復投与・生殖発生毒性併合試験 (OECD TG 422) において、母動物に体重増加抑制、摂餌量減少がみられる高用量 (100 mg/kg/day) では母親動物の2/10例で全児が死亡し、新生児生存率の低下がみられた (厚労省既存化学物質毒性データベース (Access on June 2017)、SIDS (2002)、環境省リスク評価第11巻 (2013))。また、ラットに交配1週間前から交配中16週間強制経口投与した生殖毒性試験では、中用量 (30 mg/kg/day) 以上で肝臓への影響 (重量増加、透明細胞巣の頻度増加) がみられ、高用量 (100 mg/kg/day) ではF1出生率の28%低下、F1の体重低値、F1死亡率の高値など次世代への影響がみられた (PATTY (6th, 2012))。一方、妊娠ラット、又は妊娠ウサギの器官形成期 (妊娠6~15日 (ラット)、妊娠6~19日 (ウサギ)) に強制経口投与した発生毒性試験では、母動物に死亡例が発現する用量 (ラットで200 mg/kg/day以上、ウサギで300 mg/kg/day以上) で、胎児にはラットで軽微な影響 (胎児体重の低値) のみで、ウサギでは統計的に有意な影響はみられていない (環境省リスク評価第11巻 (2013))。 以上、ラットの2試験で親動物の一般毒性用量で児動物の生存率低下が報告されていることから、区分2とした。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
GHS分類: 区分1 (中枢神経系、呼吸器)、区分3 (麻酔作用) ラットの6時間単回吸入ばく露試験において、鼻汁、協調運動性低下、持続性及び間代性痙攣が認められたとの報告がある。影響がみられた用量の詳細な記載はないが、LC50値である 284 ppm (雄) (4時間換算値: 348 ppm) 及び353 ppm (雌) (4時間換算値: 432 ppm) の付近 (区分1相当) でみられたと考えられる (ECETOC JACC 19 (1991))。また、別のラットの4時間単回吸入ばく露試験で、区分1相当の1,000 ppmで、眼と鼻の刺激、呼吸困難、協調運動性低下、振戦、知覚過敏を示した後に (死亡時期の記載はないが) 全例が死亡し、剖検結果では、肺、肝臓、腎臓のうっ血が認められたとの報告がある (DFGOT vol. 5 (1993))。経口経路では、ラットの単回経口投与試験で、円背位、嗜眠、立毛、呼吸数低下、鼻の周囲の赤褐色の変色が認められ、剖検所見では、肺の出血、肝臓の暗色化、胃上皮の剥離がみられたとの報告がある。死亡例は投与当日に死亡したが、回復例は投与の翌日には正常な外見を示したと記載されている。影響がみられた用量の詳細な記載はないが、LD50値である590 mg/kg (区分2相当) 付近でみられたと考えられる (ECETOC JACC 19 (1991))。経皮経路では、ラットの単回経皮ばく露試験で、区分2上限の2,000 mg/kgの閉塞条件下、24時間適用で、円背位、嗜眠、立毛、眼瞼下垂、一部で鼻周辺の赤褐色の変色が認められたが、2日後には症状は消失し、死亡例はなかったとの報告がある (ECETOC JACC 19 (1991))。以上の情報を総合すると、本物質は中枢神経系と呼吸器に影響を及ぼし、また麻酔作用を示すと考えられる。吸入ばく露試験での影響が区分1の範囲の用量でみられていることから、区分1 (中枢神経系、呼吸器)、区分3 (麻酔作用) とした。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
GHS分類: 区分2 (呼吸器、肝臓) ヒトについては、本物質の蒸気に5ヵ月間ばく露されたヒトで最初の2ヵ月間は頭痛がみられたがその後の3ヵ月間は症状がみられず、慣れと考えられているとの報告がある (ECETOC JACC 19 (1991))。 実験動物については、ラットを用いた強制経口投与による反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験 (OECD TG 422) において、区分1のガイダンス値の範囲内である4 mg/kg/day (90日換算: 2 mg/kg/day) 以上の雄で雄ラット特有の腎臓病変、20 mg/kg/day (90日換算: 9.8 mg/kg/day) 以上の雄で副腎束状帯の脂肪滴増加、区分2のガイダンス値の範囲内である100 mg/kg/day (90日換算: 雄48.9 mg/kg/day、雌45.6 mg/kg/day) の雄でGOT (AST)・GPT (ALT) の増加、肝臓の重量増加、肝臓の腫大・単細胞壊死、腎臓の退色・多発性灰白色点、副腎の腫大等、雌で副腎束状帯の脂肪滴増加がみられている (環境省リスク評価第11巻 (2013)、厚労省既存化学物質毒性データベース (Access on June 2017)、SIDS (2002))。ラットを用いた強制経口投与による28日間反復経口投与毒性試験において、区分2のガイダンス値の範囲内である40 mg/kg/day (90日換算: 12 mg/kg/day) 以上で、体重増加抑制、GPT (ALT) の増加、塩素・A/G比の減少、腎臓の重量増加、200 mg/kg/day (90日換算: 62 mg/kg/day) で死亡、ヘマトクリット値・平均血球容積の増加、GOT (AST) の増加、肝臓の相対重量増加、副腎の絶対及び相対重量の増加、副腎皮質の肥大、肝細胞の泡沫状物質 (水様変性又は脂肪変性) 等がみられている (環境省リスク初期評価第11巻 (2013))。
ラットを用いた18週間吸入毒性試験 (7時間、5日/週) において区分2のガイダンス値 (蒸気) の範囲内である190 mg/m3 (0.22 mg/L) 以上の群の雄で雄ラット特有の腎臓病変、399 mg/m3 (ガイダンス値換算: 0.47 mg/L) の雌で針状の石灰質、雄で慢性の肺炎及び気管支拡張がみられている (環境省リスク評価第11巻 (2013))。 以上のうち、雄の腎臓にみられた影響は雄ラット特有の所見であること、副腎束状帯の脂肪滴増加については毒性学的意義が不明であること、吸入試験で雌にみられた針状の石灰質については他の複数の評価書 (DFGOT vol. 5 (1993)、ECETOC JACC 19 (1991)) において影響として採用されていないことから分類根拠としなかった。 したがって、区分2 (呼吸器、肝臓) とした。
吸引性呼吸器有害性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。