急性毒性
経口
【分類根拠】 (1)~(3) より、区分4とした。
【根拠データ】 (1) ラットのLD50: 1,500 mg/kg (HSDB (Access on May 2020)) (2) ラットのLD50: 1,830 mg/kg (GESTIS (Access on May 2020)) (3) ラットのLD50: 3,000 mg/kg (IPCS PIM G001 (1998))
経皮
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) ウサギのLD50: > 2,000 mg/kg (GESTIS (Access on May 2020)) (2) ラットのLD50: 3,713 mg/kg (HSDB (Access on May 2020))
吸入: ガス
【分類根拠】 GHSの定義における固体であり、区分に該当しない。
吸入: 蒸気
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
吸入: 粉じん及びミスト
【分類根拠】 (1) からは区分を特定できず、分類できないとした。 なお、粉じんとしてmg/Lを単位とする基準値を適用した。
【根拠データ】 (1) ラットのLC50 (4時間): > 0.67 mg/L (技術的に達成可能な最高濃度) (JMPR (2009)、GESTIS (Access on May 2020)、HSDB (Access on May 2020)) (2) 本物質の蒸気圧: 0.0000225 mmHg (25℃) (HSDB (Access on May 2020)) (飽和蒸気圧濃度換算値: 0.00039 mg/L) (3) 本知見はクロルピリホスメチルの97%製剤であるReldan Fを用い、媒体は用いず、55℃にて蒸気を発生させたものである (JMPR (2009))。なお、本物質の融点は約45℃である。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) 本物質はウサギの皮膚に対して一過性軽度の刺激性を示す (JMPR (2009))、HSDB (Access on May 2020))。 (2) ウサギの皮膚に本物質 (500 mg) を4時間閉塞適用した皮膚刺激性試験においてごく軽度の紅斑が観察され、適用24時間以内に消失した (GESTIS (Access on May 2020))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) 本物質はウサギの眼に対して一過性軽度の刺激性を示す (JMPR (2009))、HSDB (Access on May 2020))。 (2) ウサギの眼に本物質 (100 mg) を72時間ばく露した試験において、ごく軽度の結膜の炎症が観察され、適用24時間以内に消失した (GESTIS (Access on May 2020))。
呼吸器感作性
【分類根拠】 データ不足のため、分類できない。
皮膚感作性
【分類根拠】 (1) の記載はあるが、データ不足のため分類できないとした。陽性と陰性のデータが混在し、詳細が確認できないため分類結果を変更した。
【参考データ等】 (1) 本物質はモルモットを用いた皮膚感作性試験においてビューラー法では陰性、マキシマイゼーション法では陽性と報告されている (JMPR (2009))、HSDB (Access on May 2020))。
生殖細胞変異原性
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) in vivoでは、マウスの骨髄細胞を用いた小核試験及びラットを用いた不定期DNA合成試験において陰性の報告がある (JMPR (2009))。 (2) in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験、ハムスターの卵巣細胞を用いた遺伝子突然変異試験において陰性の報告がある。また、ハムスターの卵巣細胞を用いた染色体異常試験では、陽性 (S9+) 及び陰性 (S9-) の報告がある (JMPR (2009))。
発がん性
【分類根拠】 利用可能なヒトを対象とした報告はない。(1)、(2) より区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) 国内外の分類機関による既存分類では、EPAでNL (Not Likely to be Carcinogenic to Humans) (EPA Annual Cancer Report 2018 (Access on July 2020):1999年分類) に分類されている。 (2) 雌雄のマウス及びラットに本物質をマウスでは18ヵ月間、ラットでは2年間混餌投与した慢性毒性/発がん性併合試験では、両種において投与に関連した腫瘍発生率の増加は認められなかった (JMPR (2009))。
生殖毒性
【分類根拠】 (1)~(3) より、総合的に判断して区分2とした。なお、旧分類で分類に用いた情報源は利用できず、異なる情報源を用いて検討したため旧分類から分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1) 雌マウスの妊娠7~13日に経口投与した発生毒性試験において、母動物毒性の記載はないが、胎児重量低値、口蓋裂の発生率の増加及び頸椎体の骨化の遅延がみられている (JMPR (1975))。 (2) 雌マウスの妊娠7あるいは10日に1,000 mg/kgを単回経口投与した発生毒性試験において、妊娠7日目の投与で、骨格異常 (外脳症、口蓋裂、頸椎椎弓の骨片の遊離) が数例観察された。なお、この試験は対照群を設定していない (JMPR (1975))。 (3) 雌ラットの妊娠6~15日に投与 (投与経路記載なし) した発生毒性試験において、母動物に血漿及び赤血球中コリンエステラーゼ (ChE) 活性低下がみられる用量で、胎児に腰椎の増加、胎児組織ホモジネート中ChE活性低下がみられ、この用量より低い用量で胎児に胸骨の骨化遅延がみられている (JMPR (1975))。
【参考データ等】 (4) ラットを用いた混餌投与による3世代生殖毒性試験において、親動物に血漿及び赤血球ChE活性の抑制がみられる用量において、生殖影響はみられていない。なお、第3世代の児動物の体重低値 (分娩後0、4及び21日) がみられている (JMPR (1975))。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
【分類根拠】 本物質は有機リン系農薬であり、本物質のデータはないが、コリンエステラーゼ活性阻害作用を有すると考えられることから、区分2 (神経系) とした。
【参考データ等】 (1) 本物質も含まれる有機リン系農薬のばく露により、ヒトではムスカリン症状 (気管支分泌の増加、過度の発汗、唾液分泌、流涙、縮瞳、気管支収縮、腹部痙攣 (嘔吐と下痢)、徐脈)、ニコチン症状 (筋肉の線維束性収縮 (fasciculation of fine muscles)、頻脈)、中枢神経系の症状 (頭痛、めまい、落ち着きのなさ、不安、精神錯乱、痙攣、昏睡、呼吸中枢の抑制) が生じる。軽度の中毒には、ムスカリン性及びニコチン性の兆候のみが含まれる場合があり、重症の場合は中枢神経系の関与も示す。症状の組み合わせにより、呼吸不全になり、時には肺水腫を引き起こす (EHC 63 (1986))。 (2) 本物質も含まれる有機リン系農薬は、吸入、摂取、皮膚吸収を含むすべての経路で吸収され、その毒物学的影響は、神経系のアセチルコリンエステラーゼ阻害によるものであり、呼吸器、心筋、神経筋の伝達障害を引き起こす (IPCS PIM G001 (1998))。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
【分類根拠】 (2) より、ヒトへの経皮適用で血漿コリンエステラーゼ (ChE) 活性阻害がみられ、(3)~(6) より実験動物への経口投与により区分1の範囲で神経系、副腎への影響が、(7) より実験動物への経皮適用により区分1の範囲で神経系、区分2の範囲で副腎への影響がみられていることから、区分1 (神経系、副腎) とした。なお、(5) では、区分2の範囲で腎臓、筋肉、血液系への影響もみられているが、摂餌量減少及び体重減少に伴う所見であると考えられ、より長期の (6) の試験でこれらの臓器への影響はみられていないことから、標的臓器としなかった。新たな情報源の情報に基づき検討を行い、旧分類から分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1) 本物質は有機リン系農薬である。有機リン系農薬の毒性メカニズムの主な特徴はエステラーゼ酵素活性、特にChEの阻害である (HSDB (Access on 2020))。 (2) 本物質10、25、50 mg/kg/dayをボランティア3名の背中及び腹部の皮膚に経皮適用し、血漿及び赤血球ChE活性を測定した結果、臨床症状はみられず、血漿ChE活性は10 mg/kg/day群で10日目からわずかに低下した。影響は12日で最大となり、25日までに回復した。25 mg/kg/day群では血漿ChE活性は4日目に47.5%減少し、28日目までに回復した (JMPR (2009))。 (3) ラットに本物質を13週間混餌投与した結果、1 mg/kg/day (区分1の範囲) 以上で血漿ChE活性の低下、10 mg/kg/day以上 (区分1の範囲) で赤血球及び脳ChE活性の低下、副腎の両側性びまん性肥大、副腎皮質束状帯の空胞化がみられた (JMPR (2009)。 (4) ラットに本物質を2年間混餌投与した結果、1 mg/kg/day (区分1の範囲) 以上の雌雄で血漿ChE活性の低下が、50 mg/kg/day (区分2の範囲) の雌雄で赤血球及び脳ChE活性の低下、副腎皮質束状帯の空胞化、雄で精巣重量の増加、ライディッヒ細胞過形成がみられた (JMPR (2009))。 (5) イヌに本物質を13週間混餌投与した結果、0.1 mg/kg/day (区分1の範囲) 以上で血漿及び赤血球ChE活性の低下、50 mg/kg/day (区分2の範囲) の雌雄で摂餌量減少、体重減少、赤血球数・赤血球容積・ヘモグロビン濃度の減少、肝臓、腎臓重量の増加、ALP、AST、CKの増加、脳ChE活性の低下、びまん性の小葉中心性肝細胞肥大、雌で筋消耗、腸間膜脂肪の減少、骨格筋の萎縮、腎近位尿細管の空胞化がみられた (JMPR (2009))。 (6) イヌに本物質を104週間混餌投与した結果、0.1 mg/kg/day (区分1の範囲) 以上で血漿ChE活性の低下、1 mg/kg/day以上 (区分1の範囲) で赤血球ChE活性の低下、3 mg/kg/day (区分1の範囲) で神経学的検査 (感覚および分節反射に対する反応) の異常がみられた。血液・血液生化学・尿検査パラメータについては投与に関連する影響はみられなかった (JMPR (2009))。 (7) ラットに本物質を28日間経皮適用した結果、全身影響として、10 mg/kg/day (90日換算: 3.1 mg/kg/day (区分1の範囲)) 以上の雌雄で血漿、赤血球、心臓のChE活性阻害、雌で脳ChE活性阻害、100 mg/kg/day以上 (90日換算: 31 mg/kg/day (区分2の範囲)) の雄で脳ChE活性阻害、副腎重量増加、副腎皮質の空胞化、300 mg/kg/day (区分2超) の雌で副腎重量増加、副腎皮質の空胞化がみられた (JMPR (2009))。
誤えん有害性*
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。本有害性クラスの内容に変更はない。