急性毒性
経口
【分類根拠】 (1)~(5) より、区分3とした。
【根拠データ】 (1) ラットのLD50: 110~132 mg/kg (MAK (DFG) vol.7 (1996)) (2) ラットのLD50: 132 mg/kg (Patty (6th, 2012)) (3) ラットのLD50: 177 mg/kg (ACGIH (7th, 2017)) (4) ラットのLD50: 275 mg/kg (Patty (6th, 2012)) (5) ラットのLD50: 275~451 mg/kg (MAK (DFG) vol.7 (1996))
経皮
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分3とした。
【根拠データ】 (1) ウサギのLD50: 400 mg/kg (ACGIH (7th, 2017)、HSDB (Access on April 2020)) (2) ウサギのLD50: 657 mg/kg (MAK (DFG) vol.7 (1996)、ACGIH (7th, 2017)、Patty (6th, 2012))
吸入: ガス
【分類根拠】 GHSの定義における液体であり、区分に該当しないとした。
吸入: 蒸気
【分類根拠】 (1)~(3) より、区分2とした。なお、ばく露濃度が飽和蒸気圧濃度 (801ppm) の90%よりも低いため、ミストがほとんど混在しないものとしてppmを単位とする基準値を適用した。
【根拠データ】 (1) ラットのLC50 (4時間): 233 ppm (MAK (DFG) vol.7 (1996)、ACGIH (7th, 2017)、Patty (6th, 2012)) (2) ラットのLC50 (6時間): 85 ppm (4時間換算値: 104 ppm) (MAK (DFG) vol.7 (1996)) (3) ラットのLC50 (1時間): 592 ppm (4時間換算値: 296 ppm) (ACGIH (7th, 2017)) (4) 本物質の蒸気圧: 0.609 mmHg (25℃) (HSDB (Access on April 2020)) (飽和蒸気圧濃度換算値: 801ppm)
吸入: 粉じん及びミスト
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分2とした。
【根拠データ】 (1) 本物質はウサギにおいて皮膚及び眼に刺激性を示す (MAK (DFG) (2016)、EU REACH CoRAP (2018))。 (2) 本物質は動物試験において皮膚刺激性を示す (AICIS IMAP (2016))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分2とした。
【根拠データ】 (1) OECD TG 405に準拠したウサギ (1匹) を用いた眼刺激性試験において角膜混濁、虹彩炎、結膜充血及び浮腫が認められたが、14日後までに回復した。MMAS (Modified maximum average score) は44であった (ECETOC TR48 (2) (1998))。 (2) 本物質はウサギにおいて皮膚及び眼に刺激性を示す (MAK (DFG) (2016)、EU REACH CoRAP (2018))。
【参考データ等】 (3) 本物質 (56 mg) を適用したウサギを用いた眼刺激性試験において炎症及び分泌物を引き起こし、角膜混濁回復には40~64日を要したが、より少量の適用 (23 mg) では眼への影響は重度ではなく2週間以内に症状は回復した (AICIS IMAP (2016))。 (4) 本物質は眼に対し著しい刺激と傷害を示す (HSDB (Access on April 2020))。 (5) EU-CLP分類でEye Irrit. 2 (H319) に分類されている (EU CLP分類 (Access on July 2020))。
呼吸器感作性
【分類根拠】 データ不足のため、分類できない。
皮膚感作性
【分類根拠】 (1) より、区分1Bとした。新しいデータが得られたことから分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1) TG 429に準拠したマウス局所リンパ節試験 (LLNA) 2試験において陽性となり、EC3値はそれぞれ4.63%及び25.6%であった (EU REACH CoRAP (2018)、AICIS IMAP (2016)、REACH登録情報 (Access on June 2020))。
生殖細胞変異原性
【分類根拠】 (1)、(2) より、専門家判断に基づき、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) in vivoでは、マウス骨髄の小核試験、染色体異常試験、姉妹染色分体交換試験で陰性 (IARC 119 (2019)、NTP TR482 (1999)、SCOEL (2011)、MAK (DFG) (2016))。マウスを用いたコメットアッセイ (OECD TG 489)で陰性 (EU REACH CoRAP (2018))。マウスに28日間反復ばく露 (経口) 又は単回投与 (経口又は腹腔内) したDNA付加体形成試験で陽性の報告がある (IARC 119 (2019))。 (2) in vitroでは、復帰突然変異試験において標準的な試験菌株を用いて陰性、ヒトリンパ球を用いた姉妹染色分体交換試験で陰性、哺乳類培養細胞を用いた姉妹染色分体交換試験で陽性、染色体異常試験で曖昧な結果の報告がある (IARC 119 (2019)、NTP TR482 (1999)、MAK (DFG) vol.7 (1996))。改変サルモネラ試験菌株 (TA100由来) を用いた復帰突然変異試験及びDNA付加体形成試験で陽性の報告がある (IARC 119 (2019)、EU REACH CoRAP (2018))。
発がん性
【分類根拠】 (1)、(2) より区分2とした。
【根拠データ】 (1) 国内外の分類機関による既存分類では、IARCでグループ2B (IARC 119 (2019))、産衛学会で第2群B (産業衛生学会誌許容濃度の勧告 (2019年提案))、ACGIHでA3 (ACGIH (7th, 2017))、EU-CLPでCarc.2 (EU CLP分類 (Access on April 2020))、MAK (DFG) で3B (MAK (DFG (2016)) に分類されている。 (2) 雌雄のラット及びマウスに本物質を105週間吸入ばく露した発がん性試験において、ラットの雄で鼻腔の腫瘍 (呼吸上皮の腺腫、がん及び扁平上皮がん) の合計の発生率の有意な増加がみられた。ラットの雌では鼻腔及び腎尿細管の腫瘍発生率がわずかに増加した。マウスの雄では腎尿細管腺腫及びがんの合計の発生率の有意な増加がみられた。マウスの雌では腫瘍発生率の増加はみられなかった (NTP TR482 (1999)、IARC 119 (2019)、ACGIH (7th, 2017))。これらより、本物質の発がん性に関して、雄ラットにはある程度の証拠 (some evidence) が、雌ラットには曖昧な証拠 (equivocal evidence) が、雄マウスにはある程度の証拠 (some evidence) があり、雌マウスには発がん性の証拠はないと結論された (NTP TR482 (1999))。
生殖毒性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分3 (麻酔作用、気道刺激性) とした。
【根拠データ】 (1) ヒトに対する高濃度の本物質の吸入の短期ばく露の影響は眼及び鼻の刺激である (SCOEL (2011))。 (2) ラットを用いた吸入ばく露試験において、興奮状態に続く眼刺激と嗜眠がみられたとの報告がある (産衛学会許容濃度の提案理由書 (1978))。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
【分類根拠】 (1) より、ヒトでは呼吸器に対する影響がみられ、実験動物では(2)~(6) より、区分1の範囲で呼吸器、区分2の範囲で肝臓、腎臓に影響がみられている。したがって、区分1 (呼吸器)、区分2 (肝臓、腎臓) とした。なお、旧分類で中枢神経系への影響の根拠としたと考えられる (7) については、一般的な試験でないこと、他の試験において中枢神経系への影響がみられていないことから分類根拠としなかった。したがって、旧分類から分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1) 鋳造工場労働者を対象とした研究では、28人の労働者で気道症状 (咳、鼻、喉)及び眼の刺激が報告された。 時間加重ばく露レベルは7 mg/m3であり、ピーク値は40 mg/m3を超えていた (SCOEL (2011)、MAK (DFG) (2016))。 (2) ラットに2、4、8、16、32 ppm (ガイダンス値換算: 0.0062、0.0125、0.0250、0.0499、0.0999 mg/L; いずれも区分1の範囲) の本物質を14週間吸入ばく露した試験 (6時間/日、5日/週) において、鼻腔への影響 (2 ppm以上で移行上皮の扁平上皮化生、4 ppm以上で嗅上皮の変性、8 ppm以上で呼吸上皮に扁平上皮化生と杯細胞過形成、16 ppm以上で鼻咽頭管を覆う呼吸上皮の肥大、嗅上皮の過形成、粘膜固有層の細胞浸潤、32 ppmで嗅上皮の化生等) がみられている (NTP TR482 (1999)、MAK (DFG) (2016))。 (3) マウスに2、4、8、16、32 ppm (ガイダンス値換算: 0.0062、0.0125、0.0250、0.0499、0.0999 mg/L; いずれも区分1の範囲) の本物質を14週間吸入ばく露した試験 (6時間/日、5日/週) において、ラットと同様に鼻腔への影響が区分1の範囲 (2 ppm以上) でみられている (NTP TR482 (1999)、MAK (DFG) (2016))。 (4) ラットを用いた強制経口投与による13週間反復投与毒性試験において、75 mg/kg/day (区分2の範囲) で肝臓・腎臓の絶対重量増加、肝臓及び腎臓の病変 (肝臓: 肝細胞の変性、細胞質の空胞化、腎臓: 皮質の尿細管上皮の病変) がみられている (NTP TR482 (1999)、AICIS IMAP (2016))。 (5) マウスを用いた強制経口投与による13週間反復投与毒性試験において、75 mg/kg/day (区分2の範囲) で肝臓・腎臓の絶対重量増加、肝臓及び腎臓の病変 (肝臓:肝細胞の変性、細胞質の空胞化、腎臓: 皮質の尿細管上皮の病変) がみられている (NTP TR482 (1999)、AICIS IMAP (2016))。 (6) ラット、マウスを用いた2年間吸入ばく露試験においても、非腫瘍性変化として区分1の範囲の用量で鼻腔への影響のほか、腎症の重症化がみられている (NTP TR482 (1999)、AICIS IMAP (2016))。
【参考データ等】 (7) ラットに4、9及び16週間吸入ばく露し神経系への影響を調べた試験 (6時間/日、5日/週) において、4週間後では50 ppm以上 (ガイダンス値換算: 0.045 mg/m3、区分1の範囲) でクレアチンキナーゼ活性増加 (著者はこの結果を、非特異的な神経組織の損傷の結果、アストログリア細胞の増殖を示すものとしている)、16週間後には100 ppm (ガイダンス値換算: 0.36 mg/m3、区分2の範囲) でグリア細胞画分における脳蛋白合成の減少がみられている (ACGIH (7th, 2017))。
誤えん有害性*
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。なお、(1)より、動粘性率は25℃で4.1 mm2/secと算出され、40℃の動粘性率が14 mm2/s以下であるが、その他の情報は得られなかった。
【参考データ】 (1)動粘性率が25℃で4.1 mm2/s(25℃での粘性率 4.62 mPa・s(HSDB (Access on April 2020)) と密度1.13 g/cm3 (HSDB (Access on April 2020)) から算出)である。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。本有害性項目の内容に変更はない。