急性毒性
経口
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分4とした。
【根拠データ】 (1) ラットのLD50: 820 mg/kg (EHC 93 (1989)、NTP TR155 (1979) 、MOE初期評価第14巻 (2016)、HSDB (Access on April 2020)) (2) ラットのLD50: 2,800 mg/kg (MOE初期評価第7巻:暫定的有害性評価シート (2009)、HSDB (Access on April 2020))
経皮
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
吸入: ガス
【分類根拠】 GHSの定義における固体であり、区分に該当しないとした。
吸入: 蒸気
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
吸入: 粉じん及びミスト
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分2とした。
【根拠データ】 (1) 本物質は眼、皮膚、気道を重度に刺激し、眼や皮膚で発赤、痛みを生じる (MOE初期評価第14巻 (2016)、GESTIS (Access on April 2020))。 (2) 本物質はごく軽度の刺激性を示す (EHC 93 (1989))。
【参考データ等】 (3) EU-CLP分類でSkin Irrit. 2 (H315)に分類されている (EU CLP分類 (Access on June 2020)。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分2とした。細区分に十分な情報が得られなかったため、区分を変更した。
【根拠データ】 (1) 本物質は眼、皮膚、気道を重度に刺激し、眼や皮膚で発赤、痛みを生じる (MOE初期評価第14巻 (2016)、GESTIS (Access on April 2020)、HSDB (Access on April 2020))。 (2) 本物質に対する眼刺激性は、非ばく露者よりも頻度が高いと報告されている (ATSDR (1999))。
【参考データ等】 (3) EU CLP分類でEye Irrit. 2 (H319) に分類されている (EU CLP分類 (Access on June 2020))。
呼吸器感作性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
生殖細胞変異原性
【分類根拠】 (1)、(2) より、専門家判断に基づき、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) in vivoでは、マウス腹腔内投与の骨髄小核試験で陰性、マウスの肝細胞で複製DNA合成が陰性、ラット経口投与のDNA傷害試験 (肝細胞) が陰性 (MOE初期評価第14巻 (2016))。マウス腹腔内投与の体細胞変異試験 (マウススポットテスト) で弱陽性の報告がある (MOE初期評価第14巻 (2016)、IRIS (1991)、ATSDR (1999)、HSDB (Access on April 2020)、EHC93 (1989))。 (2) in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験で陰性、陽性の結果 (IARC 117 (2019)、MOE初期評価第14巻 (2016)、ATSDR (1999)、HSDB (Access on April 2020))。哺乳類培養細胞の遺伝子突然変異試験で陰性、陽性の結果、染色体異常試験で陰性、陽性の結果、姉妹染色分体交換試験で陰性、小核試験及び異数性試験で陽性の報告がある (IARC 117 (2019)、MOE初期評価第14巻 (2016)、ATSDR (1999))。
発がん性
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分2とした。
【根拠データ】 (1) 国内外の分類機関による既存分類では、IARCでグループ2B (IARC 117 (2019))、産衛学会で第2群B (産業衛生学会誌許容濃度の勧告 (2018年提案))、EPAでB2 (probable human carcinogen) (IRIS (1991))、NTPでR (Reasonably anticipated to be human carcinogens) (NTP RoC (14th, 2016))、EU CLPで2 (EU CLP分類 (Access on May 2020)) に分類されている。 (2) 雌雄のラット及びマウスに本物質を2年間混餌投与した発がん性試験において、雄ラットで単球性白血病の発生頻度及び悪性リンパ腫と単球性白血病を組合せた発生頻度が有意に増加し、雌雄のマウスで肝細胞がんと腺腫の発生頻度が有意に増加したことから、本物質は雄ラット及び雌雄マウスに対して発がん性を有すると結論されている (NTP TR155 (1979)、IARC 117 (2019)、MOE初期評価第14巻 (2016))。
【参考データ等】 (3) 雌雄のマウスに本物質を8週間強制経口投与又は腹腔内投与し、初回投与から24週間後に肺腫瘍の有無を調べた試験では、肺腫瘍の発生率に有意な増加は認められなかった (IARC 117 (2019)、MOE初期評価第14巻 (2016))。 (4) ヒトで軟部肉腫と非ホジキンリンパ腫に関する疫学研究の報告があるが、本物質へのばく露とこれらの腫瘍発生との因果関係は明確でなく、IARCは発がん性に関する結論を導くにはデータが不十分であると結論した (IARC 117 (2019))。
生殖毒性
【分類根拠】 (1) より、母動物毒性についての記載がなく、生殖影響を示唆する所見がみられたことより、区分2とした。
【根拠データ】 (1) 雌ラットに3週齢から飲水投与し未処置の雄と交配させ、その後も分娩まで飲水投与した試験において、同腹児数の減少がみられた (MOE初期評価第14巻 (2016)、ATSDR (1999))。なお、この試験では母動物毒性の記載がない (ATSDR (1999))。
【参考データ等】 (2) 雄ラットに11週間強制経口投与し、無処置の雌と交配させた試験において、雄親の毒性用量 (死亡、体重増加抑制) においても雄の生殖器及び性機能に影響はみられず、胎児の発生にも影響はみられていない (MOE初期評価第14巻 (2016)、EHC 93 (1989))。 (3) 雌ラットに2週間強制経口投与し、未処置の雄と交配させた後は妊娠21日まで強制経口投与して雌の生殖能を調べた試験において、母動物毒性 (死亡、体重増加抑制) 及び母動物毒性による二次的影響と考えられる出生時体重の低値がみられている (MOE初期評価第14巻 (2016)、EHC 93 (1989))。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
【分類根拠】 (1) より区分3 (気道刺激性)、(2)~(4) より区分1 (中枢神経系) を標的臓器とした。(2) の症例で腎臓病変がみられたが、1例のみの所見のため、標的臓器とする十分な証拠ではないと判断した。新たなデータに基づき、分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1) トリクロロフェノールはガスマスクの検査用トレーサーガスとして使用されているが、検査時の眼、鼻、気道の刺激に対する苦情があった (MOE初期評価第14巻 (2016))。 (2) 本物質を含む木材防腐剤を経口摂取した中毒症例では、死因は中枢神経障害と推定されたが、剖検で消化管粘膜の腫脹、軽度の肺水腫及び腎尿細管壊死がみとめられた (GESTIS (Access on April 2020))。 (3) クロロフェノール (主に本物質) と低濃度のフェノールで汚染した供給水を数日間飲んだ結果、多くの人に消化管障害、頭痛、発疹、全般的な病態 (体調不良) がみられた (GESTIS (Access on April 2020))。 (4) 本物質を経口投与したラットでは、クロロフェノールに特徴的な神経障害を示唆する中毒症状 (落着きのなさ、呼吸数増加、活動性低下、振戦、間代性痙攣、呼吸困難、昏睡) がみられた。LD50値 (800~2,800 mg/kg) から、区分2の用量から症状発現すると推定された (GESTIS (Access on April 2020))。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
【分類根拠】 (1) よりヒトにおいて肺への影響がみられるとの情報があることから、区分1 (呼吸器) とした。新たな情報源の追加により、旧分類から分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1) 本物質はガスマスクの検査用トレーサーガスとして使用されている。ガスマスクの検査に携わる7人を対象に行った調査では、4人 (57%) が風邪に罹った際の胸の喘鳴を訴えており、対照群126人での発生率 (10%) より高率であった。また、肺機能検査では、75%最大呼気流量 (MEF75) の減少、クロージングボリュームの増加、肺内圧の増加、胸部X線写真における陰影像が報告されている (MOE初期評価第14巻 (2016))。 (2) ガスマスクの漏れ検査のため本物質の蒸気に2~10年間ばく露された作業者小集団において、眼、鼻、上気道への刺激と肺機能障害の証拠が認められ、1症例では肺の線維化まで確認されている (EHC 93 (1989)、GESTIS (Access on April 2020))。
【参考データ等】 (3) 本物質のラットの90日間経口投与試験では、240 mg/kg (区分2超の範囲) 以上で血清アルブミンの増加、肝臓及び腎臓の重量増加、720 mg/kg (区分2超の範囲) 以上で流涎、尿による被毛の汚れ、副腎及び精巣の重量増加、血清の総タンパク質やALT (GPT) の上昇、尿pHの低下がみられたが、病理学的変化はみられなかった (MOE初期評価第14巻 (2016))。 (4) 本物質のラットの7週間混餌投与試験では、1% (90日換算値272 mg/kg、区分2超の範囲) 以上で体重増加抑制、4.6% (90日換算値1,252 mg/kg/day相当、区分2超の範囲) で脾臓の髄外造血、肝小葉中間帯の細胞質空胞変性がみられた (MOE初期評価第14巻 (2016)、EHC 93 (1989))。 (5) 本物質のラットの106~107週間混餌投与試験では、末梢血の白血球及び単球の増加、骨髄過形成がみられたが、これらの所見は加齢に伴う所見であり、その発生率は正常範囲内であった (NTP TR155 (1979))。
誤えん有害性*
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。本有害性項目の内容に変更はない。